キャリア・カウンセリング、ガイダンス そしてコンサルティングへ

第2回 カウンセリングとガイダンスの源流と発展

I カウンセリングの3つの源流

1 カウンセリングの源流

今日世界各国で行われているカウンセリングには、いろいろな理論とそれに基づく技法があり、数え方にもよるがその数は少なくとも40~50にはなるだろう。
 しかし、100年に及ぶ歴史の中でその源流が3つあることは広く容認されている。今回はカウンセリングとガイダンスの源流と発展について、その要点を解説する。歴史と不易を知らず、専ら新しさだけを追う傾向を嘆くからである。カウンセリングとガイダンスは職業分野では一体として行われるので、ここでは一体として解説する。

(1)職業指導運動

19世紀末から20世紀初頭にかけてアメリカの鉱工業生産はすでに世界第1位であり、急激な鉱工業化と経済成長によって世界を制する大国としての地位を確保していた。
 しかし、その裏には急激な工場労働者の増加、農村から都会への人口の流入、周期的な恐慌、移民労働者の増加、失業、貧困、都市のスラム化など陰の社会問題を抱えていた。
 これらの問題に職業という側面から対応したのはセッツルメント、宗教団体、博愛的な人権団体などの社会改革者が「人は、産業の所有物ではなく、自分で運命を決める人格があり、それが尊重されるべきである」という哲学であった。

この流れにカウンセリングとガイダンスを取り入れたのがパースンズ(Parsons,F)で「職業指導の祖」と言われている。ボストンで永年にわたりセッツルメント活動をしていた彼は、「単に仕事を見つけるのではなく、職業を選択するのが望ましい」として、博愛主義者の援助を得てボストン・サーレム街の一角に職業相談室を開設し、職業相談と職業指導を開始した。その実践と経験をもとに「職業の選択(Choosing a Vocation)」を書いた。
 その後その内容は、現在まで職業指導の中核的なカウンセリングとガイダンス理論「特性因子理論(マッチング理論)」として定着した。

(2)心理測定運動

当時心理学で盛んになった「心理測定」と「個人差の研究」を源流とする運動と実践である。「すべて存在するものは量的に存在する。量的に存在するものは測定することができる」という哲学から心理測定の技術が発達した。
 職業指導運動と時を同じくして、ビネー(Binet.A)とシモン(Simon.T)が知能検査を開発した。その流れはアメリカにわたり開花した。集団式軍隊A式、B式検査の開発と広範な使用をはじめガイダンスとしての職業指導における一般職業適性検査(GATB General Aptitude Test Battery)、各種の特殊適性検査、職業興味検査、パーソナリティ検査、職業価値観検査、TAT(Thematic Apperception Test)、ロールシャッハテストなどのプロジェクティブ・テストなどが開発され、カウンセリングとガイダンスが一体なって測定と評価が行われた。
 これらのテストはその後わが国に導入され、日本人向けに標準化され、新しく開発された各種テストと共に現在も活用されている。

(3)精神衛生運動

カウンセリングの第3の源流はクリフォード、ビアーヅ(Beers,C.W)によって起こされた「精神衛生運動」である。職業指導運動と時を同じくして「全国精神衛生協会」が設立された。この運動に心理学者、精神医学者などが参加し、患者の心理を理解し、適切な治療を行うことを訴えた。
 さらにその後ウイリアムソン(Willamson.E.G)によって当時かなり発達していた臨床的心理診断の技法が取り入れられ、医者が患者の治療にあたって行う診断・治療のモデルを心理的問題の解決に活用されていった。

このカウンセリング分野を確立したのはロジャーズ(Rogers.C,R)らによる「来談者中心カウンセリング」である。この理論の基本は、「人は自分を中心とする主観的な知覚の世界、すなわち「現象的な場」に生きており個人の行動は外界からの刺激によって規定されるのではなく、その個人の受け取り方や意味づけによって規定されるとする。
 この理論では、カウンセラーの「基本的態度」が最も大切であり、それは次の3つだとされ、これは今日あらゆるカウンセリング理論の基本となっている。

① カウンセラーは、クライエントに対し無条件の肯定的関心を持つこと(受容的態度)

② カウンセラーは、クライエントの内的世界を共感的に理解し、それを相手に伝えること(共感的理解)

③ カウンセラーは、クライエントとの関係において、心理的に安定しており、ありのままの自分を受容していること(自己一致または誠実な態度)

II キャリア・カウンセリングとガイダンスの関係

1 アメリカにおける職業教育から職業指導、キャリア教育への発展

19~20世紀初頭、アメリカの学校教育では「職業指導(職業ガイダンス)」は、「職業教育」というかたちで行われていたが、学問中心、エリート主義、現実生活との遊離などの公教育批判が広まっていた。これに対し専門的農業教育を推進するモリル法(Morrill.Act)、公立学校での商業科の導入、AFLなど労働組合の職業教育、スミス・ヒューズ法(Smith-Hughes Act)などの施策が行われた。
 この時代は職業教育と職業指導(職業ガイダンス)は分離されておらず、学校教育における職業指導は情報提供にとどまっていた。

その後第1次世界大戦後の20世紀前半になるとアメリカの職業教育と職業指導は、診断と治療を中心とする学校カウンセリングと職業行政の職業指導の2つの流れに分離していった。
 特徴的な施策や実践をあげると、職業行政では1930年代の大不況に刺激された「失業者の職業訓練プログラムの開発と実施」、労働省の職業辞典(DOT:Dictionary of Occupational Titles)、「職業選択と適応に関するミネソタ研究」、兵員の選抜と配置のためのテスト、アセスメン手法の開発などである。
 これらの手法と成果は、太平洋戦争後わが国の労働行政の職業指導に導入され、その考え方と内容が充実され現在も活用されている。

教育行政における最も大きな方向は「キャリア教育」の展開である。
 アメリカの教育行政は20世紀後半に入ると、「幼稚園から成人教育にいたるまでの教育全体をキャリア発達」の視点から再編する教育改革が行われた。当時の教育長官マーランド(Marland.S)が提唱したキャリア教育がその代表である。それは児童から成人のすべてに、①基礎技術、②試行、判断、意思決定能力とスキル、③職業技術の3つの能力とスキルを付与しようという壮大な計画と実践であった。教育における連邦モデルの他に使用者を対象としたモデル、家庭・コミュニテイ・モデルなど多様なガイダンスが行われたといわれる。
 その成果は必ずしも明らではないが、近年わが国で体系的に実施されている「キャリア教育」の原点ともなるものである。因みにわが国におけるキャリア教育とは、「学校教育と職業生活の円滑な接続を図るため、望ましい職業観・勤労観及び職業に関する知識や技能を身につけさせるとともに、自己の個性を理解し、主体的に進路を選択する能力・態度を育てる教育」(中教審「接続」答申)と定義されている。

2 キャリア・ガイダンスの具体的内容、必要な能力

(1)職業指導(職業ガイダンス)の6分野

キャリア・ガイダンスの定義についてはすでに述べた(第1回)。ここでは職業指導(職業ガイダンス)と呼ばれてきたガイダンスの具体的内容やそれに必要な能力について解説しよう。
 「職業指導の祖」と呼ばれたパースンズ(Parsons,F) がその著書「職業の選択」(1909)において根拠とした「職業選択理論」、その後スーパー(Super,D.E)が「職業的発達12の命題」(1957)を提言した「職業発達理論」でも、職業ガイダンスが登場、発展してきた時代のガイダンスの内容は、「職業指導の6分野」として説明、実践されてきた。必要な能力もその6つの能力ということになる。この6分野は国内外を問わず現在でもガイダンスの実施分野であり、そのために必要な能力を生み出している。
 それは次の6つである。
 ① 自己理解
 ② 職業理解
 ③ 啓発的経験
 ④ カウンセリング
 ⑤ 方策の実行
 ⑥ フォローアップ・職場定着

(2)キャリア・モデルの出現と、それに対応するガイダンス

20世紀後半カウンセリングとガイダンスの世界で「職業からキャリアへ」の運動が起こり、スーパー(Super,D.E)などを中心として、全米職業指導協会は「職業指導の再定義」を行った(1951)(第1回参照)。爾来、職業指導(Vocatinal Guidance)はキャリア・ガイダンス(Career Guidannce)と呼ばれ、就職支援だけでなく人生全体の生き方、自己概念の実現、社会貢献の支援へと多様化、高度化した。

このように拡大、多様化した「キャリア・ガイダンス」は、具体的に何をするのか、そのためにどんな能力を必要とするのか、理論、活動分野、政策との関係などによっていろいろな内容があり、国によっても大きく異なっている。ここではこれまでの理論、実践を踏まえて最も客観的、包括的、妥当と思われる今日の「キャリア・ガイダンスの分野とそれに必要な能力」を示しておこう。

① 受容的態度、共感的理解、自己一致したカウンセラーとして基本的態度ををもってカウンセリングを行う知識とスキルを持っていること(General Counselig)

② いろいろなカウンセリングを知っており、そのうち自分が準拠する理論の基本的知識を持ち、それを適切に実施するスキルを持っていること(Theories)

③ キャリア・ガイダンスの実施過程において、必要な情報、情報源、情報の活用法、情報を作成する知識とスキルを持っており、それを実践できること(Information)

④ 援助の対象者(クライエント)の適性、興味、価値観、パーソナリティ、及びグループの評価に関する知識とスキルを持ち、それを実践できること(Individual and Group Assessment)

⑤ 組織の人事・労務管理、作業環境、企業風土などの組織に関する知識と環境に働きかけるスキルを持ち、それを実践できること(Manegement and Administration)

⑥ プログラムを実際に実行する知識とスキルを持ち、それを実践できること(Implementation)

⑦ 自己研鑽、継続的学習を常に行い、知識、スキルを高め、自身の力量を向上させること(Self Learning)

《引用・参考文献》
 1 木村 周「キャリア・コンサルティング 理論と実際」 2010 一般社団法人雇用問題研究会
 2 吉田辰夫編「21世紀の進路指導事典」 2001 ブレーン出版
 3 日本産業カウンセリング学会編「産業カウンセリング・ハンドブック」 2001 金子書房

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