キャリア・カウンセリング、ガイダンス そしてコンサルティングへ

第7回 職業理解への支援(その2)

今回は職業理解の実際について述べる。キャリア・ガイダンスやコンサルティングの実践の場面で、相談者に必要な職業情報をどこから得てどのようにして提供するかはきわめて重要である。まず、職業情報の種類について述べよう。
 キャリア・ガイダンスやコンサルティングにおける職業情報は、歴史的には印刷情報や視聴覚教材から、シミュレーション、コンピュター支援システム(CACGS)へと発展してきた。

I 職業情報のタイプ

1 印刷物、出版物

最も伝統的で、基本的な情報媒体は、IT化が極端に進展した今日でも印刷情報である。わが国においても、これまで「職業事典」(厚生労働省)、「この仕事は何をするの」(労働政策研究・研修機構)、「職業分類」(厚生労働省)、「職業名索引」(同)、「職務分析」(労働政策研究・研修機構)、「職業ハンドブック」(同)、「職業レファレンスブック」(同)など主として政府及び関係研究機関から提供されてきた。
 民間からも「仕事の本」、「業界情報」、「会社四季報」、「資格情報」、「職業ガイダンス・ブック」、「就職支援の手引き」など多くのものが出版されて今日に至っている。
 印刷情報の代表は「職業ハンドブック」(労働省・日本労働研究機構)である。詳細については後述する。印刷・出版情報は、一般に体系的な完成物としてできあがった情報なので一般に手軽に利用できる。一方内容を最新にするには時間と労力を必要とする。このため利用者はインターネット情報などで、常に更新する必要が必然的に伴うのが難点である。

2 視聴覚情報

視聴覚情報は、古くから相談者に直接訴える情報として広く使われてきた。マイクロフィッシュ、VTR、テレビ、映画などの映像と音声による情報の提供である。研究によれば、一般に印刷情報の場合より相談者をより動機づけると言われている。
 NHKなどテレビで放映される職業人の仕事内容や日常の活動、卒業生を招いて授業をする教育番組などは、きわめて直接的な職業情報である。
 過去において最も大規模な職業ビデオは「私の仕事館映像ライブラリー」(雇用・能力開発機構)で、約700余の職業について、
 ① 仕事の内容(何かな)
 ② その職業に就いている人へのインタービュー(なるほど)
 ③ その職業への入職条件(なるには)
の3部構成の情報が映像化されている。
 さらに「もっと知りたい」のコーナーでは、各職業とも新人、中堅、ベテランが、どのようにして就職したか、その仕事のどこが楽しく、どこが苦しいか。なぜその仕事を続けているかなどを赤裸々に語ってくれる。
 残念ながら「私の仕事館」は、現在その業務を終了し、閉鎖されている。一部のヤングハローワーク、学生職業センター、ジョブカフェなどで一部を見ることができる。視聴覚情報の作り方、活用の仕方などのために是非とも活用してもらいたいと私は願っている。

3 シミュレーションによる情報

現実の人生場面で、職業やキャリアは、多くの職業をそのまま実際にやってみることはできない。そこでその代替えとしてある条件でやってみるのがシミュレーションによる情報提供である。
 代表的なシミュレーションには、ロールプレー、ライフキャリア・ゲーム、ジョブ・サンプルなどがある。キャリア・ガイダンスやコンサルティングの現場で活用されているものはいろいろある。就職面接ロールプレー、職業探索ゲーム、ジョブ・クラブ、構成的エンカウンター、キャリア支援ワークショップなど広く使われており、手引き、説明書などが広く市販されている。
 シミュレーションを実際に行うためには、それぞれの機関や組織で充分な研修を受け、ものによっては資格を持って行うことが必要である。

4 職業人への面接、実習、体験学習による情報

職場訪問、OB・OG訪問、職務調査、一日体験学習、職場実習、インターンシップ、アルバイトなど、実際にやってみることは最大の情報源である。
 例えば企業が行うジョブ・ローテーション、ハローワークの職場適応訓練、大学生のインターンシップ、障害者・高齢者などに対するトライアル雇用などがこの具体的展開である。
 これらの体験学習は、用意周到な事前準備、注意深い運営と実践、事後の評価などが必要である。全県的に公立学校などで行われている「ワーキングデー」などは、このような視点がどれだけ取り入れられているかが重要となる。小学校から大学に至る「キャリア教育」の立場でも重要な課題である。

5 コンピュータ支援システム

CACGS(Computer Assisted Career Guidance System)として総称されている。
 1970年代から欧米で開発され、アメリカ、カナダのDISCOVER,CHOICES、ヨーロッパでも国情に応じたシステムが開発されている。
 わが国でも永年の研究により「キャリア・マトリックス」(労働政策研究・研修機構)が開発されたが、事業仕分けの結果現在廃止されている。しかし、その開発のために事前に開発された「職業ハンドブックCD-ROM版」(労働政策研究・研修機構)、「職業ハンドブックOHBY」(同)、などは広く活用されている。また、中高年用の「キャリア・マトリックスMC」(同)は、現在でもパソコン上で利用することができる。
 また、純粋のCACGSではないが、職業紹介については「総合的雇用情報システム」(厚生労働省)、「ハローワーク・インターネット・システム」(同)、「仕事情報ネット」(同)などがある。
 CACGSは、科学的データに基づき客観的情報を、手際よく、かつ低コストで多くの利用者に提供する利便さは世界的に定着している評価である。しかし、問題がないわけでもない。それは評価に対する基準が必ずしも明らかでないこと、人によって異なること、また利用者がパソコン処理に熟達する必要があることなどで、利用者は利用に関する充分な研修、技術などに熟達する必要があることである。

6 キャリア・センター

教育、雇用、能力開発などのキャリア支援を1カ所に集め、キャリア関連情報の活用効果を高めようとする傾向が高まっている。
 その代表は1980年代から始まったアメリカの「ワンストップ・キャリアセンター」である。雇用、教育、職業訓練などの情報を1カ所で受けることができる機関で、2000年当初で、アメリカの公共職業安定所、失業保険給付事務所、職業訓練機関の半分がワンストップ化されていると言われている。
 わが国においても各種の専門ハローワークが連携を強め、「ジョブ・カフェ」(地方公共団体)、キャリア教育との連行を図る「サポートステーション」などが活動を強めている。
 キャリア・ガイダンスやコンサルティングは、今日学校、職業紹介・指導機関、企業の分野で行われている。これらの機関が相互に連携することが強く求められている。カウンセラーやコンサルタントが、そのネットワークや情報源をどれだけ知っているかが、ガイダンスやコンサルティングの内容や質を決める。

II いくつかの職業探索システム

1 職業ハンドブック、職業ハンドブックCD-ROM版、職業ハンドブックOHBY

(1)職業ハンドブック(印刷物)
 最も代表的な職業情報は「職業ハンドブック」であることはすでに述べた。アメリカのOOH(Occupational Outlook Handbook)を参考にして1980年代以来、日本労働研究機構が永年の研究の結果完成し、以後広く使用されている総合的職業情報である。
 組み込まれている情報は次の6項目である。

① どんな職業か:
 その職業について全く知らない人でも全体的なイメージがつかめるように職業の特徴や内容を解説している。

② この職業に就いている人たち:
 この職業に就いている人たちがどのくらいいるか。性別、年齢別の就業者数、就業上の地位、雇用形態などの状況を解説する。

③ この職業に衝くには:
 この職業に就くために必要とされる学歴、専攻科目、専門領域、実践経験、国家試験・免許資格の必要性。

④ この職業の歩みと展望:
 この職業はこれまでどのように推移してきたか。今後どのように推移するか。

⑤ この職業についての問い合わせ先:
 この職業についてもっと知りたい場合の問い合わせ先、関係行政機関、関係団体などの所在地、電話番号など。

1997年版(初版)では300の職業が登載されており、それそのものが「職業の地図」としての情報を提供している。

(2)職業ハンドブックCD-ROM版
 職業ハンドブックを初めてCD-ROM化し、パソコン上で使用できる検索システムとして初めて開発された。その使用上の利便さ、職業パノラマなど各種の検索手段、職業の映像化などによって、学校進路指導などのキャリア・ガイガンスに爆発的に普及した。

次のような検索ができるようになっている。

① 職業パノラマ:
 職業全体を眺め、12の職業領域から一つを選ぶと該当する職業一覧が表示され、その中から選んで情報検索する。

② 情報検索:
 自分で条件を設定し、それに合った職業を調べたいときに使う。
 適性、興味、経験など12 の条件項目を設定し、該当する職業を絞っていくことができる。
 条件の内容は、次のとおりである。
 ○必要とされる職業機能:データを扱う(D)、人を扱う(P)、ものを扱う(T)
 ○職業興味領域:現実的(R)、研究的(I)、芸術的(A)、社会的(S)、
  企業的(E)、慣習的(C)
 ○職業適性:知的能力(G)、言語能力(V)、数理能力(N)、書記的知覚(Q)、
  空間判断力(S)、形態知覚(P)、目と手の供応(K)、指先の器用さ(F)
 ○経験:一人前になるまでの経験年数、必要な訓練や経験の内容
 ○学歴:一般的な学歴(その職業に就くための学歴ではない)
 ○産業分類:その職業が多く見られる産業分類
 ○就業形態:パート、アルバイト、自営が多いなど
 ○免許・資格:どんな免許・資格が必要か
 ○労働力需要:今後その職業が増えるか、減るかどうかの見通し
 ○年齢:その職業に就いている人の年齢別特徴
 ○性:その職業に就いている人の性別特徴
 ○入離職:他の職業との比較

③ 職業グループによる検索:
 必要とされる適性能力と興味領域から分けたものと、必要とされる機能から分けたものが検索できる。

④ 職業分類による検索;
 厚生労働省職業分類を用いて検索を行う。大分類、中分類、小分類の順に該当する職業が提示される。

⑤ 職業名による検索:
 職業名の50音一覧表から検索する。

以上どの職業から検索しても提供される情報は、職業ごとに
  ① どんな職業か
  ② この職業に就いている人
  ③ この職業に就くには
  ④ この職業の歩みと展望
  ⑤ 労働条件の特徴
  ⑥ この職業に関する問い合わせ先・関係団体
の6項目が提示される。
 その他「職業選択のガイド」、「職業の世界の将来」を文章で解説している。

(3)職業ハンドブックOHBY
 職業ハンドブックOHBY(Occupatonal Hand Book for Youth)は、職業ハンドブックCD-ROM版を中学生、高校生に対する進路指導、キャリア教育用に再構成し、作成したもので詳細は省略する。
 次にように構成されている。
  ○職業の世界を見る:「職業パノラマ」、「ジョブタウン検索」
  ○職業を探索する:「キーワード検索」、「仕事発見テスト」(適性、興味テストの結果と
   連携して検索する)、「50 音検索」
  ○職業情報を調べる:ハンドブック共通の6項目を調べる。
  ○職業について考える:「職業学を学ぼう」、「職業選択のガイド」
  ○検索結果の記録・整理

(4)適性診断システム キャリア・インサイト
 2001年わが国独自の構想により初めて開発された総合的コンピュータ支援ガイダンス・システム(CACGS)である。
 利用者は自分でコンピュータを操作しながら「職業適性の評価」、「具体的な職業と適性情報との照合」、「職業情報の検索」、「キャリアプランニング」の4つのステップの全部か一部を利用者のニーズに応じて行う。
 全体構成は、下図のとおりである。

キャリアインサイトの全体構造

まず、各コーナーでは個人のどんな側面で、適性診断に結びつく評価が行われているかを見てみよう。
1)能力評価
 ① リーダーシップとオーガナイズ
 ② ボランティアとサポート
 ③ プランニング
 ④ スポーツとエクササイズ
 ⑤ リサーチとアナライズ
 ⑥ コンピュートとアカウント
 ⑦ ハンドメーキング
 ⑧ アートとクリエイト
 の8つの側面について自信が測定され、プロフィールと解説で説明される。
 プロフィールを解釈したら、具体的職業とマッチングを行う。
 
2)興味評価
 現実的(R)、研究的(I)、芸術的(A)、社会的(S)、企業的(E)、慣習的(C)の6領域について興味・関心が測定され、結果はプロフィールと解釈、興味の六角形で表現される。それにより職業とのマッチングを行う。
 
3)価値観評価
 「仕事重視」、「会社重視」、「環境重視」の3つの視点から価値観を測定する。その測定項目は次のとおりである。結果はプロフィールで表示され、解釈する。

① 仕事重視は、達成感、仕事の内容、社会奉仕や貢献、成果反映、処遇、公平さなど9項目

② 会社重視は、企業の将来性、雇用の安定性、企業ブランド、企業規模、賃金の5項目

③ 環境重視は、勤務地限定、昼間の勤務、休日の取りやすさ、育児休暇の制度化、物理化学的環境、対人関係、福利厚生の7項目

4)行動特性評価
 会社入社4年目と想定して、仕事や人間関係などの環境にどう対処するかを評価する。結果は以下の6つの尺度で表示され、プロフィールと解釈で表現される。
 ○チームプレー vs 個人プレー
 ○保守 vs 革新
 ○組織人 vs 自由人
 ○フォローワー vs リーダー
 ○ジェネラリスト vs スペシャリスト
 ○マイペース vs 負けず嫌い

5)総合評価コーナー、職業情報コーナー、キャリアプランニングコーナー
 その他、「総合評価コーナー」では、これまでの各種評価結果に基づき結果のまとめ、適合度の表示とコメントが提示され、総合評価に基づくマッチングを行う。
 「職業情報コーナー」では、417 の職業について、情報を提供される。
 「キャリアプランニングコーナー」では、短期プランとしては希望する職業との相性診断、就職準備チェックリストを行い、長期キャリアプランとしてはライフイメージと年代別目標の設定、ライフイベントの書き込みを行う。

(完)

《引用・参考文献》

1 木村 周「キャリア・コンサルティング 理論と実際」 2013 一般社団法人雇用問題研究会

2 産業カウンセリング学会監修「産業カウンセリング・ハンドブック」 2000 金子書房

3 「職業ハンドブック」他具体的情報については、日本労働研究・研修機構の手引き、マニュアル等によった。

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