キャリア・カウンセリング、ガイダンス そしてコンサルティングへ

第5回 自己理解への支援(その2)

I 自己理解のプロセス

前回は自己理解の特徴、内容、最近の能力観など、自己理解の背景となっている理論や考え方について述べた。今回は自己理解を具体的に展開するためのプロセス、そこで使用する心理検査など自己理解の具体的展開について述べる。

1 現在の自分を描いてみる

自己理解の第一歩は、現在の自分を描いてみることである。職業やキャリアの選択、決定、形成は「自分を知り、自己を拡大しながら、それを職業やキャリアに結びつけていくこと」である。自分を描く最もよい方法は「自己紹介文」を書いてみることである。

将来の夢、生き方・信念、長所・短所、能力・適性、趣味、学校で学んだこと、経験、家族・友人などを描いてみることである。その場合大切なことは、自分の肯定的な部分をチェックしてみることである。人間誰でも長所と短所を持っている。それが個性的だということである。自分の長所を生かした人生を考えることである。

2 自分の個性を吟味する

自己理解の第二のステップは、自分の能力・適性、興味、価値観、経験などをより深く吟味してみることである。
 その方法には大きく分ければ、次のように分けられる。

① 自然観察法;日常生活で自然に何をしているかなどを、あるがままに観察し、記録する。

② 道具を用いた測定法;心理検査、調査などを用いて測定、評価し、記録する。

③ 実験的測定法;場面、状況を設定したり、条件を統制したり、変化させてその反応を測定、評価し、記録する。

④ 面接法;キャリア・カウンセリング、コンサルティングなどの相談場面で直接観察、評価する。

II 自己理解の項目

自分の個性を吟味する場合、どんな側面を吟味するのか、それは次のような側面について職業、キャリア、人生と関連づけて自分を理解することである。

 (1)能力・適性

キャリア・ガイダンスやコンサルティングにおける狭義の能力・適性とは、人がある職業に従事して、その職業が要求するさまざまな側面を充分にやりこなす能力をいう。
 この能力・適性には、ある人が潜在的に持っている比較的変化の少ない意味の能力・適性(潜在的能力)、学習などで習得された学力、技能・技術、経験(習熟能力)、さらには集中力、協調性、決断力、コミュニケーション力など潜在的能力・適性と職業生活などで習得された総合的能力・適性がある(第4回「自己理解の内容」参照)。

 (2)興味・パーソナリティー

人間、好きなことは意欲的に行う。職業やキャリアとの関係もできれば興味に合ったことをやるほうがよい。もっとも人生好きなことばかりではない。嫌いなこともその中の好きな側面を生かすようにとらえて職業やキャリアと関連させることが大切である。
 「人間の興味やパーソナリティーは現実的、研究的、芸術的、社会的、企業的、慣習的に分けられ、環境も同じ6類型に分けられる。人間の行動は、興味やパーソナリティーの表出そのものだから、職業選択にあたっても、できるだけ同じ類型になるようにしたほうがよい」とする類型化などがこれにあたる。

 (3)価値観

人は、自分が価値を認めない職業やキャリアを永く続けることはできないだろう。自分が何に価値をおいているかを知り、その価値観を満たすような働き方、生き方をしたほうがいい。
 ところで、職業的価値観はその人のライフスタイルと密接に関連する。価値というと一般的には名声、権力、財力、健康、家族、人間性、社会的威信、創造的な生活、宗教などがあげられる。

 (4)過去の経験

現在の自分は、過去のさまざまな経験を土台にして作られている。
 働くことに関して最も重要で吟味すべきことは過去に経験した仕事の内容職務経験であろう。そのほか過去に影響を受けた人と出来事も大きな要素である。
 キャリア・ガイダンス、コンサルティングでは、過去の経験は、職務経歴書、キャリア・シート、ジョブ・カードなどによって把握される。その中で自分のアピールポイントが強調されるが、その内容は特に職業経験、知識・技能、その他の個人特性(希望、自信など)の3点を適切に理解し、表現することである。

III キャリア・ガイダンス、コンサルティングに使用される主な心理検査

ここでは主として公的研究機関などで作成され、広く使われているキャリア・ガイダンス、コンサルティングで使用されている心理検査等を紹介しよう。

 (1)厚生労働省編一般職業適性検査(GATB)

この検査はGeneral Aptitude Test Batteey、GATBと通称される(以下GATBという)。
 この検査は米国労働省が1930 年代以降永年にわたって研究開発し、戦後1950 年代わが国労働省が導入、標準化し以来今日まで定期的に改定、学校進路指導、職業指導に使われて今日に至っている。世界的最も基本的な「一般職業適性検査」である。

① 測定項目
 知的能力(G)、言語能力(V)、数理能力(N)、書記的知覚(Q)、空間判断力(S)、形態知覚(P)、運動供応(K)、指先の器用さ(F)、手腕の器用さ(M)の9性能。

② 検査の構成
 11種類の手筆検査、4種類の器具検査からなり、それを組み合わせて、上記9適性能を測定し数値化、プロフィール化する。検査は時間制限法の最大能力測定検査である。中学生以上、45歳未満。定期的な標準化により統計的処理が行われている。

③ 判定とガイダンス
 13の職業探索領域と40の適性職業群(OAP;Occupational Apttiude Pattern)とによって個人の職業適性の探索と適性職業群の探索を同時に行うことができる。
 適性職業群はそれ自体「職業全体の地図」であり、職業理解の道具ともなっている。自己理解と職業理解はバラバラではならない。その意味で世界的に行われている一般職業適性検査の代表である。

 (2)職業レディネス・テスト(VRT)

この検査Vocatinal Readiness Test VRTと通称される(以下VRTという)。
 「職業レディネス」とは、職業準備性、すなわち「個人の根底にあって、将来の職業選択に影響を与える心理的な構え」を測定する。1972年現労働政策研究・研修機構が開発以来3度の改定を行い、原則として中学、高校における進路指導において自己理解の用具として活用されている。

① 測定項目
 A、C検査は職業に対する基礎的指向性(日常の生活行動や意識、興味)、職業興味、職務遂行の自信度。B検査は対情報関係志向(D)、対人関係志向(P)、対物関係志向(T)。

② 検査の構成
 A検査(仕事内容への興味)、B検査(日常の生活行動や意識、興味)、C検査(仕事内容への自信度)の3部からなる。各質問項目ごとに選択肢への回答、時間制限なし、通常40~45分程度。それぞれ標準得点とプロフィールで示される。

③ 判定とガイダンス
 自分の進路問題に取り組むとき「自分の持ち味を知り、それを生かせるような仕事や職業について確かな知識や情報」を得ることはきわめて重要である。まだ職業に就いたことがない中学、高校生にやりやすいように工夫され、科学的に処理された心理検査である。
 2010年VRTをカード化し、個人対話型の「VRTカード」も開発、発売されている。

 (3)VPI職業興味検査(VPI)

米国の心理学者ホランド(Holland,J.L.)によって開発された職業興味検査の日本版である。国内外において関連研究も多く代表的な職業興味検査で、対象は大学生であるが成人一般の自己理解に広く使われている。

① 測定項目
職業興味尺度は、現実的(R)、研究的(I)、芸術的(A)、社会的(S)、企業的(E)、慣習的(C)の6類型。
 職業興味を選択する傾向を示す傾向尺度は、自己統制(Co)、性傾向(Mf)、
社会的威信(St)、ユニーク性(Inf)、選択の数(Ac)の5尺度。

② 検査の構成
 160種の職業に関する興味(好き、嫌い、どちらでもない)を選択し、職業興味尺度、傾向尺度の粗点、標準点、プロフィール、興味の六角形、興味パターンなどを算出する。
 被験者自身が自分で手集計をすることが原則である。その過程で自己理解を進める。

③ 判定とガイダンス
 「人のパーソナリティーは6つに分けられ、環境も同じ6つに分けられる。人の行動はパーソナリティーの表出行動だからできるだけ同じ類型に職業選択をしたほうが成功の度合いが高まる」というのがホランドの考え方である。具体的ガイダンスは、次の手順で進められる。
・興味領域尺度、興味パターン、興味の六角形、傾向尺度から興味のある職業領域を選定し、職業コードを選定する。
・職業興味による職業興味分類の職業コード別に興味のある職業を選定する。

 (4)キャリア・インサイトMC

利用者自身がコンピュータを使って職業選択やガイダンスを行うシステム(CACGS;Computer Assisted Carees Guidance System)が世界的に広まっている。このシステムは、総合的な診断、情報システムであるが、その中の価値観等に関する部分を解説する。

① 全体の構成
 適性診断、総合評価、職業情報、キャリア・プランニングの4分野から構成されている。
このシステムは4つの分野について素材やヒントを与えるが、意志決定するのは利用者本人である。

② 価値観等に関する測定項目
 適性診断の分野は、次の4つのツールから構成されている。
 ・能力;職業に関連する能力の8つの側面。
 ・職業興味;ホランドの6類型、日常生活での興味の3つの志向性。
 ・価値観;職業選択にあたって重視する仕事重視、会社重視、環境重視の3つの側面。
 ・行動特性;基礎的性格と思考特徴、職場イメージ、対人業務の3つの側面。

③ 活用とガイダンス
 多面的に個人の特徴を把握し、評価の結果はただちに採点され、プロフィールが表示されコメントが出力される。利用対象者は30歳代から60歳前半と幅広い。誰でもできるが多くの場合結果についてカウンセラーやコンサルタントと相談することが大切である。
 他の心理検査も同じだが、結果はあくまでも自己理解のための一つの情報に過ぎないことに留意しなければならない。
 なお、若年者向きには、「キャリア・インサイト」が公表されている。CD・ROMによるコンピュータ支援システムである。

 (5)ジョブ・カード

自己理解において仕事に関する過去の経験、さらには過去に自分が影響を受けた人や出来事が重要であることはすでに述べた。一般に、これらの記録は職務経歴書キャリア・シートジョブ・カードなどによる。もともとジョブ・カードは、政府の成長力底上げ戦略の一環として内閣府により開発され、キャリア・コンサルティングの実践と一体となって普及されてきた。

① 制度の概要
 広く求職者等を対象にして、きめ細かなキャリア・コンサルティング、実践的な職業訓練、訓練終了後の職業能力評価、安定的な雇用への移行等の促進を、ハローワーク、企業、職業訓練機関が一体として継続して行う。
 職業能力形成プログラムとしては、雇用型訓練(企業)、委託型訓練(NPOなど)、公共訓練、求職者支援訓練(訓練機関)がそれぞれ独自性を発揮しながら連携して行う。

② ジョブ・カードの種類と活用
 履歴シート;職経歴、学習・訓練歴、資格・免許、自己PRなどの総括。
 職務経歴シート;職務経歴を詳しく記載するいわゆる「職務経歴書」。
 キャリアシート;就業に関する目標、希望を記載し、本人に交付する。
 評価シート;訓練実施企業が、訓練終了時に受講者の職業能力を評価し、また職業能力以外の長所、意欲、アピールポイントなどを記載し本人へ公布する。

③ 活用とガイダンス
 就職面接などでは、働くことに関する自分の適性、能力、興味、価値観などを適格に把握、整理し、自分のアピール・ポイントを相手に理解させることができるかどうかである。
 職務経歴書、キャリア・シートはその目的に応じて様々な様式があるが、特に職業訓練、勤務した企業でどれだけの技術・技能を獲得し、異動、転職しようとしているかなどに重点を置いた代表的なキャリア・シートがジョブ・カードである。

《引用・参考文献》

1 木村 周「キャリア・コンサルティング 理論と実際」 2010 一般社団法人雇用問題研究会

2 厚生労働省「厚生労働省編一般職業適性検査 手引」 1995 一般社団法人雇用問題研究会

3 独立行政法人労働政策研究・研修機構「職業レディネス・テスト 第3版手引」 2006 一般社団法人雇用問題研究会

4 日本労働研究機構「VPI職業興味検査 第3版手引」 2002 株式会社日本文化科学社

5 独立行政法人労働政策研究・研修機構「キャリア・インサイトMC 手引」 2007 一般社団法人雇用問題研究会

6 一般社団法人日本産業カウンセラー協会「ジョブ・カード講習テキスト」 2012 一般社団法人日本産業カウンセラー協会

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