キャリアコンサルティング ―その過去、現在、未来―

第2回 キャリアコンサルティングに必要な能力(その1)

職業能力開発促進法の改正、第7次職業能力基本計画の策定、事業主が行うキャリア形成支援を行った後、キャリアコンサルタントは何ができる人か、キャリアコンサルティングに必要な能力を明確にする作業に取りかかった。

平成13年10月厚生労働省は、「キャリアコンサルティング研究会」を設置し、内外の専門家からのヒアリング、当時我が国で行われているキャリア・カウンセリングやキャリア・ガイダンスの実態の把握を行った。

平成14年4月研究会は、その中で「キャリアコンサルティングの実施に必要な能力」を明らかにした。
 それによると、キャリアコンサルティングに必要な能力は、次の四つのカテゴリーから構成されている。
 ① キャリアコンサルティングの社会的意義に対する理解
 ② キャリアコンサルティングを行うための基本的知識
 ③ キャリアコンサルティングの実施過程において必要なスキル
 ④ キャリアコンサルティングの効果的な実施にかかる能力
 今回は、上記のうち社会的意義に対する理解を行うための基本的知識及びキャリアコンサルティングを行うための基本的知識についてその具体的内容について解説する。

1 キャリアコンサルティングの社会的意義に対する理解

次のような項目と内容によって、構成されている。

(1)社会・経済的動向とキャリア形成支援の必要性の認識

技術革新の進展など社会的・経済的な変化に伴い、個人が主体的に自らの希望や適性・能力に応じて、生涯を通じたキャリア形成を行うことの重要性と、そのための支援の必要性、また、労働政策上の要請の背景を十分理解しているか。

(2)キャリアコンサルティングの役割の理解

職業を中心としながらも、個人の生き甲斐、働き甲斐までを含めたキャリア形成、個人と組織の共生、個人に対する相談支援だけでなく、教育・普及活動、環境への働きかけも含むものであることを理解しているか。

(3)キャリアコンサルティングを担う者の活動範囲と義務

1)活動範囲・限界の理解

キャリアコンサルタント自身の力量、実践フィールドの限界を理解し、誠実かつ適切な配慮をもって職務を遂行できるか。

2)守秘義務の遵守

相談者のプライバシーや相談内容は、相談者の許可なしに口外してはならず、守秘義務、個人情報保護法令など基礎的な任務、範囲などを十分に理解しているか。

3)倫理規定の遵守

キャリア形成支援の専門家としての倫理観を有し、倫理規定(基本理念、任務範囲、守秘義務の遵守等)について十分に理解し、実践できるか。

2 キャリアコンサルティングを行うための基本的知識

基本的知識について、下記のような学問、実践分野に対する理解を示している。

(1)キャリアに関連する各理論の理解

キャリア発達理論、職業指導理論、職業選択理論等のキャリア開発に関する代表的理論の概要(基礎知識)について十分理解しているか。

(2)カウンセリングに関連する理論の理解

キャリアコンサルティングの全体の過程におけるカウンセリングの役割を十分に理解しているか。来談者中心アプローチ、認知行動的アプローチ等代表的なカウンセリング理論の概要(基礎知識)を十分理解しているか。
 グループワーク、グループガイダンス、グループカウンセリング、グループエンカウンターなどの意義、有効性、進め方などを理解しているか。

(3)自己理解に関する理解

キャリアコンサルティングにおける自己理解の重要性、視点、手法等について体系的に理解しているか。
 自己理解を深めるためのキャリアシート、面接、観察、職業適性検査等を含む心理検査の種類、目的、特徴、主な対象、実施方法、評価方法等について理解しているか。

(4)仕事に関する理解

仕事は、「職業」だけではなく、ボランティアなどの活動も含むことを十分理解しているか。
 職務分析、職業調査、職業分類、職業に関する情報の収集、内容、情報媒体、情報提供機関、入手方法等について理解しているか。

(5)職業能力開発に関する理解

職業能力の要素、学習方法、成果の評価方法、教育訓練体系、職業能力開発に関する情報の種類、内容、情報媒体、情報提供機関、入手方法について理解しているか。
 また、教育訓練プログラム、能力評価シート、ジョブカード制度の目的、内容、対象等について理解しているか。

(6)人事労務管理に関する理解

企業における雇用管理の仕組み、代表的な人事労務施策、その動向、課題、支援制度、評価基準、ワークライフバランスの理念、労働者の属性や雇用形態に応じたキャリアに関わる共通課題等について理解しているか。
 また、主な業種における勤務形態、賃金、労働時間等の具体的な労働条件について理解しているか。

(7)労働市場に関する理解

社会情勢や産業構造の変化とその影響、雇用・失業情勢を示す有効求人倍率、失業率の最近の状況について理解しているか。

(8)労働関係法規、社会保障制度等に関する理解

職業安定法、雇用対策法、職業能力開発促進法、労働基準法、労働安全衛生法等の労働関係法規、また、年金、社会保険等に関する社会保障制度、労働者の雇用や福祉を取りまく各種の法律・制度について、キャリア形成との関連で理解しているか。

(9)学校教育制度、キャリア教育に関する理解

初等中等教育から高等教育に至る学校種ごとに、教育目標、青少年期の発達段階に応じた教育のあり方などについて理解しているか。

(10)メンタルヘルスに関する理解

メンタルヘルスに関する法令や指針、メンタルヘルスの保持・増進を図る対策の意義、方法、職場改善、ストレスに関する代表的な理論、ストレス要因、対処法について理解しているか。
 代表的な精神的疾病の概要、症状、相談者の見立て、対応、特別な配慮について理解しているか。職場復帰支援、専門家等との連携などの具体的方法について理解しているか。

(11)ライフステージ、発達課題に関する理解

職業キャリアの準備期、参入期、発展期、円熟期、引退期等の各ライフステージ、出産、育児等のライフイベントにおいて解決すべき課題や、乗り越えなければならない発達課題について理解しているか。

(12)転機に関する理解

初めての職業選択、転職、退職などの人生の転機が訪れたときの受け止め方や対応の仕方について、理解しているか。

(13)相談者の類型的・個人的特性についての理解

相談者の類型的・個人的特性、例えば障害者については、障害の内容や程度、ニートなどの若者については、生活環境や生育歴等によって、課題の見立てのポイントや留意点について理解しているか。

キャリアコンサルティング―その過去、現在、未来—の第2回は、キャリアコンサルティングに必要な知識のうち、「キャリアコンサルティングの社会的意義に関する理解」、「キャリアコンサルティングを行うための基本的理解」の二つの分野について、その要点を紹介した。

《引用・参考文献》

木村 周「キャリアコンサルティング 理論と実際(4訂版)」 平成28年5月、(一般社団法人)雇用問題研究会

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