第3回 キャリアコンサルティングに必要な能力(その2)
今回は、「キャリアコンサルティングの相談実施において必要なスキル」について解説する。これは第1回に解説した平成13年に制定された「職業能力開発促進法の改正」とともに厚生労働省から発表された「キャリアコンサルティング実施のために必要な能力体系」のうち「キャリアコンサルティングの相談実施において必要なスキル」の要約である(前回はキャリアコンサルティングの社会的意義、基本的知識について解説した)。
1 基本的スキル
(1)カウンセリング・スキル
キャリアコンサルタントとして、相談者に受容的・共感的、誠実な態度で相談者との人格的相互関係を維持しつつ相談を進めることができるか。
さらに相談者との関係構築を踏まえ、情報提供、教示、フィードバック、等の積極的関わり技法を適切に実施できるか。
(2)グループアプローチ・スキル
グループを活用したキャリアコンサルティングの意義、有効性、進め方の留意点等について理解し、それを踏まえてグループアプローチを行うことができるか。
また、若者の職業意識の啓発、社会的・基礎的能力の習得支援、自己理解などの効果的に進めるためのグループワークを行うことができるか。
(3)キャリアシート作成指導・活用スキル
キャリアシートの意義、記入方法、記入に当たっての留意事項等を十分に理解したうえで指導ができるか。
また、職業能力開発機会に恵まれなかった求職者のためにジョブ・カード作成指導や必要な情報提供ができるか。
(4)相談過程全体のマネジメント・スキル
相談者の抱える問題の把握を的確に行い、相談過程のどの段階にいるかを把握し各段階に応じた適切な進行・管理ができるか。
2 相談実施過程において必要なスキル
(1)相談場面の設定
1)物理的環境の整備
相談を行うにふさわしい物理的環境を確保する。
2)心理的な親和関係(ラポール)の形成
受容的態度で相談者と接する。
3)キャリア形成及びキャリアコンサルティングに関する理解の促進
主体的なキャリア形成の必要性、支援の範囲、最終的な意志決定は相談者が行うことなどを理解させる。
4)相談者の目標、範囲等の明確化
これまでの相談内容を整理し、当該相談者の到達目標、相談を行う範囲、相談の緊要度等について、相談者との間で具体的な合意を得る。
(2)「自己理解」支援
1)自己理解への支援
職業興味や価値観等の明確化、キャリアシート等を使用した職業経験の棚卸し、職業能力の確認、相談者を取り巻く環境の分析などにより、相談者自身が自己理解を深めることを支援する。
2)アセスメント・スキル
適切な時期に、適切な職業適性検査等の心理検査を選択、実施、その結果の解釈を行い、心理検査の限界を含めてそれを相談者自身が理解するよう支援する。
(3)「仕事理解」支援
相談者がキャリア形成における仕事(職業だけでなく、ボランティア活動等職業以外の活動を含む)の理解を深めるための支援をする。
また、インターネットの情報媒体を含め、職業や労働市場に関する情報の収集、検索、活用法等について助言する。
(4)「啓発的経験」支援
インターンシップ、職場見学、トライアル雇用等の職業体験の意義や目的について、相談者自身が理解し、実行するよう支援する。
また、相談者がそれらの経験を、自身の働く意義や職業選択の材料として活用することができるよう支援する。
(5)「意思決定」の支援
1)キャリア・プランの作成指導
自己理解、職業理解、啓発的経験をもとに職業だけでなく、どのような人生を送るのか、自分と家族の基本的生活設計、ライフプラン等を踏まえて、相談者のキャリア・プランの作成を支援する。
2)具体的な目標設定への支援
相談者のキャリア・プランをもとにした中長期的な目標や、展望の設定、それを踏まえた短期的な目標の設定を支援する。
3)能力開発に関する支援
相談者の設定目標を達成するために必要な自己学習、職業訓練に関する情報の提供、プランの作成、その継続的見通しについて支援する。
(6)「方策の実行」支援
1)相談者に対する動機づけ
相談者が実行する方策(進路・職業の選択、転職、職業訓練の受講等)について、その目標、意義の理解を促し、相談者自身が自らの意志で取り組んでいけるよう働きかける。
2)方策の実行のマネジメント
相談者が実行する方策の進行状況を把握し、相談者に対して現在の状況を理解させるとともに今後の見通し、進め方について適切な助言をする。
(7)「新たな仕事への適応」支援
方策の実行後におけるフォローアップも、相談者の成長を支援するために重要であることを理解し、相談者の状況に応じた適切なフォローアップを行うこと。
(8)相談過程の総括
1)適正な時期における相談の終了
キャリアコンサルティングの成果、目標達成具合を勘案し、適正だと判断できた時点で、相談を終了することを相談者に伝え、納得を得たうえで相談を終了すること。
2)相談過程の評価
相談者自身が、目標の達成度、能力の発揮度の自己評価ができるよう支援する。また、キャリアコンサルタント自身が、相談支援の過程と結果について自己評価すること。
キャリアコンサルティング―その過去、現在、未来―の第3回は、職業能力開発促進法に基づく「キャリアコンサルティングの出発」(第1回)、「キャリアコンサルティングの社会的意義、キャリアコンサルティングを行うための基本的知識」(第2回)を前提としたうえで、それをどう具体的に展開するのかという「スキル」について解説した。キャリアコンサルティングは国家資格化(後述)されたが、さらに「実技」にあたる部分である。
いろいろな分野で、キャリア形成支援に関わっておられる人、これから関わろうとする方々は、各項目の具体的展開にあたって参考にしていただきたい。
《引用・参考文献》
木村 周「キャリアコンサルティング 理論と実際(4訂版)」 平成28年5月、(一般社団法人)雇用問題研究会