第10回 ハローワークにおける職業指導・職業紹介の実際(その2)
前回はハローワーク窓口における求職者の職業指導・職業相談の全体像について示した。これから数回にわたりその実際について述べる。今回は求職者の相談過程における「ニーズの見極め」から、「課題解決支援(支援サービス)」の前半までについて要約しよう。
1 相談過程での求職者のニーズの見極め
(1)求職者のニーズに応じたサービスを行うための説明と誘導
求職者のニーズをハローワークの一般窓口で、短時間で把握するのは現実には極めて困難である。そのため、まずハローワークが提供する各種のサービスの内容を説明と誘導で適切に行うことである。
(2)相談過程での求職者ニーズの見極めのポイント
1)見極めの必要性
特に「あっせんサービス」を中心にサービスを受けている者のうち、本来「支援サービス」を受ける必要がある者でないかを確認すること。
2)求職受理時点での当面の判断を適切に行うこと
① 「支援サービス」か、「あっせんサービス」か、その両方かなど基本方針を決めること。
② この相談・援助の基本方針に基づいて「あっせん(援助)計画」を作成すること。
③ 「応募活動の方法」の支援については、すべての求職者に行うこと。
3)「あっせんサービス」を受ける者を4分類により考え、支援すること
① 求職活動が初めてで、どうしてよいか分からない者
② 自分で選択した求人に関する助言等を求める者
③ 職業相談を求めず、職業紹介のみを求める者
④ 情報提供のみを求める者
4)ハローワークのシステム求職管理情報への「問題点・留意事項」の記入
「問題点・留意事項」を参照し、必要に応じて下記のようなサービスを行うこと。
① 次回の相談で、問題点・留意点の相談を継続する。
② 職業相談だけでなく、セミナーの受講、予約相談などキャリアコンサルティング、カウンセリングなどの利用などを促す。
③ あらかじめ求職活動開始後一定期間経過後は、じっくり時間をかけた「支援サービス」を受けることとなっていることを周知しておく。
2 題解決支援サービス(支援サービス)
(1)課題解決支援サービス(支援サービス)の概要
1)概要
「課題解決支援サービス(以下「支援サービス」という)とは、求職者が就職するうえで解決すべき課題を把握し、その解決のために必要な支援を行う職業相談を中心としたサービスである。求職者の持つ課題を一つ一つ発見し、解決していくことにより、就職可能性を高めていくサービスである。
2)課題の把握の考え方
課題は就職活動の次のような一連のプロセスの中で考えることになる。
① 自己理解(適性・能力、興味、職務経歴、生活に必要な諸要因など)
② 職業理解(仕事の内容、就職の機会、求人の有無、賃金等の労働条件など)
③ 目標の設定(職業、時期など就職する目標を設定する)
④ 応募活動の方法に関する知識の習得(求人情報の収集、応募書類の準備等)
⑤ 求人情報の収集、探索、検索(希望条件に基づき具体化する)
⑥ 応募先求人の決定・応募(書類選考、選考面接など)
3)課題把握の方法
まず、次のような点についてチェックする。
① 自己理解ができているか。
② 仕事・職業理解ができているか。
③ 希望条件と就職目標が設定されているか。
④ 応募活動の方法に関する知識があるか。
⑤ 求人検索と応募先求人の決定が適切にできているか。
⑥ 一般常識など社会性を有しているか。
⑦ 心理状態に問題はないか。
(2)自己理解と仕事・職業理解に係る支援
1)理解の必要性
次のような点を考慮して支援する必要がある。
① 自己理解においては、職業能力(能力、適性スキル、知識等)の側面と、職業志向性(職業興味、価値観、ワークスタイルなど)の両側面から考える。
② 働くことの意義、現実の労働市場の現状、本人が就きたいと思う職業の内容を特に本人に検討させる。
③ 求職者が、自己理解を通して長所、短所に気付き、「自己分析」し、就職活動を通して「自己発見」することを支援する。
2)自己理解と仕事・職業理解の確認
次のような点を考慮して確認する。
① 就職経験のない者、短期の職業経験しかない若年者、適した職業が分からない者、職業希望がはっきりしない者など、求職者の特性に応じて行う必要がある。
② 職業相談の過程の中で、適性・能力、長所・短所、希望職業などを把握し確認していくこと。
③ 必要に応じて、キャリアコンサルティングや適性検査を行って確認すること。
3)自己理解と仕事・職業理解に課題のある求職者に対する支援
次のような点を考慮して支援する必要がある。
① 通常の支援の他に、職務経歴の棚卸し、興味、関心事項の書き出し、適性検査等による自己分析、セミナー、職業講習、キャリアコンサルティングの実施、ジョブ・カードの活用などを行う。
② 職業生活設計に配慮した職業選択ができるよう配慮すること。
③ 自分の強み、過去の職業経験における成功経験を役立つように支援すること。
④ 求職者の希望条件に応じた求人情報を検索する中で、労働市場の現状を理解させること。事業所見学会、セミナー、グループワークなども活用すること。
(3)希望条件等の設定に係る支援
1)希望条件等の的確な設定の必要性
現実的な設定とするとともに、希望優先度合いを検討し、いつ頃までに実現するかという目標を設定すること。
2)希望条件等の的確な設定に関する確認
次の点に留意して確認する。
① 確認の方法(求職申込み書、相談過程の口頭での確認など)
② 確認の観点(就職活動、地域の労働市場における求人の現状など大きな乖離がなく現実できるかなど)
③ 適性・能力の把握方法(職務経歴や資格などを踏まえ、希望職種のどんなレベルまで遂行できるかなど)
④ 希望条件等の把握方法(求職申込み書の希望条件等を、固定的なものとして機械的にそのまま受け止めるのでなく、どれを優先、重視するかなど)
⑤ 職員による労働市場理解の重要性(職員がまず労働市場について、正確かつ幅広い知識を持っているかどうかは、最も基本である)
3)希望条件の設定に課題のある求職者に対する支援
次の点に留意して支援する。
① 支援の方向性
ⅰ 設定された希望条件を現実的なものに緩和、変更する。
ⅱ 既存の求人に対する、希望条件に適合するような求人条件緩和指導。
ⅲ 希望条件に適合する求人を確保するための個別求人開拓。
ⅳ 職業訓練などによる求職者本人の職業能力の向上。
② 希望条件の緩和、変更指導の方法
ⅰ 客観的なデータ(労働市場、労働条件、求職状況など)を示して説明する。
ⅱ 希望条件をいくつかの項目に分解してどれにこだわり、どれを緩和できるかを確認する。
ⅲ 求職者が選択した求人に連絡をとって求人条件緩和を試み、それが困難になった段階で改めて指導を試みる。ただし、求人者のその後の結合機能を低める危険性があるので留意する必要がある。
③ 希望条件の緩和、変更指導が困難な場合の対応
ⅰ これまでの経緯や理由を確認し、現実認識の誤りがあれば、適正な理解に達するよう情報提供する。
ⅱ 希望条件をいくつかの項目に分解し、どれのこだわり、どれを緩和できるか検討し、条件緩和の可能性をさぐる。
ⅲ 本人が選択した求人者に連絡を取って、条件緩和を依頼し、それが困難になった時点で指導を行う。ただし、この方法はその後の求人者との結合関係を低めることもあるので注意は必要である。
ⅳ 安定所が主体となって、的確な求人を提示する。
④ 既存の求人に対する、希望条件に適合するような求人条件緩和指導 既存の求人に条件緩和が可能であると思われるものを見つけて、求人者に対し条件緩和依頼を行う。
⑤ 希望条件に適合する個別求人開拓 求職者の希望条件に適合する求人が、労働市場に存在する可能性があれば、求人開拓を行う。
⑥ 職業訓練などによる求職者本人の職業能力の向上 求職者の職業能力の向上によって、就職の可能性が高まると判断できるときは、官民の職業訓練を検討する。
⑦ 自己理解、仕事・職業理解の支援の再検討 上記さまざまな条件緩和策を行っても、見通しが立たない場合は、求職者本人の課題が、本人の自己理解または仕事・職業理解の段階にあるものとして、その段階に戻って支援をする。
《引用・参考文献》
1 (独立行政法人)労働政策研究・研修機構労働大学校(現 厚生労働省労働大学校)「職業指導の理論と実際」2013年、同大学校テキスト
2 木村 周 「キャリア・コンサルティングの理論と実際(3訂版)」2016年、(一般社団法人)雇用問題研究会