わが国職業紹介・職業指導の系譜 ―その過去、現在、未来―

第3回 職業指導・職業紹介の発生と法的根拠(その2)

I 職業指導・職業紹介の一般原則

職業指導・職業紹介は、基本的には労働者の職業選択の自由と、事業主の雇い入れの自由を前提として、求職者と求人者の雇用関係の成立をあっせんするものである。
 職業安定法は、その一般原則を以下のように定めている。以下、その要点を示そう。
 (ここでは、職業安定法の関係条文の趣旨を示しているので、条文そのものではない)

1 自由の原則

「何人も、公共の福祉に反しない限り、職業を選択することができる」(法第2条・施行規則第2条)
 職業紹介にあたっては、求職者には職業選択の自由が、求人者には雇い入れの自由がそれぞれ保証されている。したがって、求職者は紹介された職業に就くことを強制されるものではなく、求人者も紹介された求職者を雇い入れることを強制されるものではない。

2 適格紹介の原則

「求職者に対しては、その能力に適合する職業を紹介し、求人者に対してはその雇用条件に適合する求職者を紹介するように努めなければならない」(法第5条の7)
 職業紹介は、人と職業の結合であるから、適格紹介の原則を示した原則である。

3 公益の原則

「求職者に対し、迅速に、その能力に適合する職業に就くことをあっせんするため、及び求人者に対し、その必要とする労働力を充足するために、無料の職業紹介事業を行うこと」(法第5条3項)
 職業安定法第5条は、「政府の行う業務」を7項目列記している。そのうち上記3項の趣旨をとらえて、古くから「公益の原則」として言われてきた。公共の機関である公共職業安定所が行う職業紹介は、求職者または求人者の一方の利益に偏することなく行われなければならないという趣旨と考えられる。

4 均等待遇の原則

「何人も、人種、国籍、信条、性別、社会的身分、門地、従前の職業、労働組合の組合員であることを理由として、職業紹介、職業指導等について、差別的取り扱いを受けることがない」(法第3条)
 これはまさに憲法「法の下の平等」(第14条)そのものである。そのことがそのまま職業紹介、職業指導に及ぶことを示したのである。

5 中立の原則

「公共職業安定所は、労働争議に対する中立の立場を維持するため、同盟罷業、または作業所閉鎖の行われている事業所に、求職者を紹介してはならない」(法第20条1項)
 公正な労働関係を図るために、公共機関である公共職業安定所は、労使に対して中立の立場を維持しなければならない。
 なかでも労働争議は、職業紹介によって大きな影響を受ける場合が多く、労働争議そのものを無意味にしたり、一方のみを援助することになりかねない。労働争議の解決を妨げるような求人申込みに対して、求職者を紹介してはならない。

6 労働条件明示の原則

「公共職業安定所等は、求職者等に対し、その者が従事すべき業務の内容及び賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない」(法第5条の3・1項)
 「求人者は求人の申込みにあたり、求職者等が従事すべき業務の内容及び賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない」(法第5条の3・2項)
 職業紹介にあたり、求職者、求人者が労働条件を明示することは、労働者の保護、就職後の紛争、就職後の職場適応、また求人者が適格な労働者を得るためにも必要な基本である。

7 求人受理、求職受理の原則

「公共職業安定所及び職業紹介事業者は、求人の申込みはすべて受理しなければならない」(法第5条の5)
 「公共職業安定所及び職業紹介事業者は、求職の申込みはすべて受理しなければならない」(法第5条の6)
 職業紹介する側の事情によって求職、求人の受理を拒否することは、原則として許されないことを示している。ただし申込みの内容が法令に違反するなどは、受理しなくてよいこととされている。

II 労働力需給調整システム

1 労働力需給調整システム

労働力需給調整とは、労働力を需要する側(人を求めている事業所)、労働力を供給する側(働こうとする求職者)との間に立って、両者が円滑に結合するよう調整することである。
 現在、法律等により制度化されている労働力需給調整システムは、職業紹介事業(民営職業紹介を含む)、労働者募集、労働者派遣事業、労働者供給事業である。労働者需給を民間にまで拡大するのは、官民一体となってわが国全体の需給を調整しようとするシステムです。
 しかし、職業安定行政以外のものがこれらの事業を行う場合は、一定の規制や職業安定行政の指導・監督を受ける。

2 有料職業紹介事業

(1)取扱い事業の制限

職業安定法施行時(昭和22年)当時有料職業紹介事業は取扱い職業11職業でスタートした。その後、取扱い職業の追加が行われ、現在は、平成11年の法改正により、法第32条の11に規定する職業を除く職業については、広く職業紹介を行えるようになった。
 さらに平成16年、労働力需給の迅速、円滑かつ適格な結合を促進、求職者の保護などを目的とした法改正が行われ現在に至っている。平成23年現在有料職業相談事業所数は16,613事業所である。

3 無料職業紹介事業

(1)学校の行う無料職業紹介

学校(法第33条の2)、特別の法人(法第33条の3)、地方公共団体(法第33条の4)は、厚生労働大臣への届出によって、その他厚生労働大臣の許可を受けて無料の職業紹介を行うことができる。
 平成23年度現在無料職業相談事業所数は828事業所である。

(2)特別の法人、地方公共団体が行う無料職業紹介

商工会議所、農協等の特別な法律により設立された法人であって、厚生労働省令で定めるものは、法第33条の3に基づき厚生労働大臣に届け出て、当該法人の構成員を求人者または求職者として、無料職業紹介を行うことができる。

地方公共団体は、自ら行う施策に関する業務に付帯する業務として、厚生労働省に届け出て無料の職業紹介を行うことができる。

4 労働者派遣事業

(1)労働者派遣法の成立

労働力需給調整システムの一環として制度化し、適正に運営し、派遣労働者の雇用の安定と福祉の増進を図るため昭和60年労働者派遣法が制定された。
 その後、経済・産業構造の変化、働く人の働き方、価値観の多様化などの中で累次の改正が行われ今日に至っている。

(2)労働者派遣事業の定義等

労働者派遣、紹介派遣事業、事業規制(労働者派遣を行えない業務、許可・届出制など)が法律で細かく規定されている。

5 労働者募集

職業安定法に規定されている労働者募集には文書募集、直接募集、委託募集の3種類があり、文書募集及び直接募集は自由に行うことができるが、委託募集は許可制または届出制とされている。
 文書募集の媒体には、新聞、雑誌、ビラ、ちらし等があるが、特に求人誌に対しては、求人広告内容の適正化について、自主的な努力を求めるとともに、掲載基準の作成や審査機関の設置などを進めることなどが求められる。
 委託募集とは、労働者を雇用しようとする者が、その被用者以外の者をして労働者の募集に従事させる形態である。この場合は厚生労働大臣または都道府県労働局長の許可または届出が必要である。

我が国の労働力需給システムとその現状

今回は、職業指導、職業紹介の法的根拠として、一般原則と労働力需給調整システムの概要を紹介した。

《引用・参考文献》

1 独立行政法人労働政策研究・研修機構労働大学校「職業指導の理論と実際 平成26年度版」
〈労働大学校における職員研修テキストのため購入することはできない〉

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