わが国職業紹介・職業指導の系譜 ―その過去、現在、未来―

第4回 自己理解とアセスメント

I 職業紹介・職業指導の6分野

職業紹介や職業指導は具体的に何をするのか。それは6分野についてクライエントを支援することであり、その内容は「キャリアガイダンス(Career Guidance)の6分野」として、永年にわたり、世界的に定着している。
 その内容は、次の通りである。

① 自己理解の支援:個人が進路や職業、キャリア形成に関し、「自分自身」を理解するよう援助すること。

② 職業理解の支援:個人が進路や職業、キャリア・ルートの種類と内容を理解するよう援助すること。

③ 啓発的経験:個人が意志決定する前にやってみることを支援すること。

④ カウンセリング:キャリアに関するカウンセリングを行い、キャリアの選択、意志決定、方策の実行の支援を行うこと。

⑤ 方策の実行:進学、就職、転職、キャリア・ルートの変更、退職など意志決定したことを実行することを援助すること。

⑥ 追指導・職場適応の支援:選択し、実行されたキャリアへの適応を支援すること。

II 自己理解のためのアセスメント

自己理解のためにカウンセリングやテストを行うことを、一般にアセスメントと呼ばれる。自己理解のためのアセスメントは、次のような意味を持っている。

① アセスメントは、最終的には自分自身を分析し、さらに統合するという手続きをとる。
 ここで分析とは、自分をいくつかの視点から見つめ、各視点ごとに観察された自分の特徴を描写することであり、統合とは、分析された自分の特徴をもう一度全体としてまとめて描写することによって、それまで漠然としていた自分の像が明らかになり、自分の言葉で説明できるようになる。

② 自分を描写する言葉や方法は、客観的でなければならない。客観的とは、自分を描写する言葉や内容が、他人にも自分と同じように理解してもらえる性質を持っていることをいう。要するに自分にしか通じない言葉や内容であってはならない。

③ 自己理解には、自己の個性について知るだけでなく、自己と環境との関係、つまり環境の中での自己を知ることも含まれる。学校、企業などの中の環境理解が自己理解を進め、自己理解が環境理解をすすめる。

④ 自己理解は、包括的かつ継続的に行わなければならない。個人は生涯を通じて自己理解を継続する。その間自己とキャリアの関係は絶えず変化し、意志決定が繰り返される。

III 自己理解のためのアセスメントの内容

1 標準的内容

では、何をアセスメントするのか。共通して指摘されてきたものを整理すると、次のように要約される。

① 潜在的な能力(職業適性)

② 獲得された能力(専門知識、技術、技能)

③ 受けた教育、訓練

④ 個人的特性(興味、パーソナリティ、価値観)

⑤ 余暇活動、その他の生活活動

⑥ 個人をめぐる諸条件(所属組織の諸条件、家族関係、地域の条件など)

2 アメリカ労働省データベース(O’NET)による内容

今日最も精緻化されたアセスメント項目と考えられる。

① 能力(abilitie): 認知、精神運動、身体、知覚機能の4分野52項目

② 興味・価値観:興味は現実的、研究的、芸術的、社会的、企業的、習慣的の6類型
価値観は達成、快適感、地位、奉仕、安全、自律の6分野18項目

③ ワーク・スタイル:達成、社会的影響、内的動機、適応、誠実性、独立、実行力志向の7分野16項目

④ 技能(skill):

(1)基本的スキル
読解力、会話力、記述力、表現力、計算力、科学力の6分野

(2)プロセス・スキル
危機管理能力、積極的傾聴、学習方策、モニタリングの4分野

(3)応用スキル
社会的スキル、問題解決スキル、テクニカルスキル、システム化スキル、資源管理スキルの5分野の36項目

(4)知識(knowledge)
ビジネス・管理、製造・生産、工学・技術、数学・科学、健康サービス、教育・訓練、芸術・人文、科学、法律・公共サービスコミュニケーション、運輸の10分野32項目

3 スーパー(Super.D.E)の職業的適合性

最も古く職業との関係で個人の関係を「職業的適合性」として概念化したのはスーパー(1957)である。
 そこでは、能力(適性、技量)とパーソナリティ(適応、価値観、興味、態度)に分類している。

IV 職業安定行政が作成、活用してきた適性検査等の系譜

1 厚生労働省編一般職業適性検査(GATB)

職業安定法は、戦後昭和22年法施行以来「公共職業安定所は、必要と認めたときは、職業指導を受ける者について適性検査を行うことができる」と規定して、職業指導の重要な手段の一つとしてテストを位置づけてきた。

そのため戦後、職業安定行政開始とともに一般職業適性検査の開発と活用が実施された。アメリカ労働省が10年の歳月をかけて完成したGATB(General Aptitude Test Battery)をアメリカ労働省の許可を受けて我が国の実情に合うように翻案し、所定のテスト作成の手続きを経て、昭和27年(1957年)公表された。
 以来、昭和32、44、58年改訂を経ながら代表的な一般職業適性検査として、中学、高校の職業指導で活用されてきた。直近では平成7年手引(改定新版)、結果の見方が公表された。
 昭和63年には、公共職業安定所の一般求職者用も開発され、職業訓練受講者を中心に広く使用されている。

2 その他の主なテスト

(1)炭鉱離職者の職業指導に使われたテスト

石炭産業の衰退に伴う大量の炭鉱離職者の雇用対策のために、昭和34年炭鉱離職者臨時措置法が制定された。炭鉱離職者や中高年齢者に対する「就職促進の措置」が行われた。
 その中で求職者の相談をやりやすくするためのテスト、調査が開発され、わが国職業安定所として初めての本格的な「職業指導、職業紹介」が行われた。
 その中で開発、活用された調査、検査、テストは次の通りである。

 職業指導調査(VAT-1A,1B)
  就職相談調査(VAT-15A)
  炭鉱離職者転換可能職種一覧表、附炭鉱用語集
  経験技能調査(EWC-15A)
  職業興味検査(VIC-10A)

(2)職業レディネス・テスト

職業レディネスとは、「職業に対する準備性のこと、すなわち、個人の根底にあって、将来の職業選択に影響を与える心理的な構え」である。職業発達理論の進展に対応し、職業的発達と成長を援助する若年者に対する職業指導の道具として、昭和47年(1972)職業レディネス・テスト(Vocational Readiness Test)が開発された。
 構成は基礎的志向性、職業興味、職務遂行の自信度の3部からなっており、平成元年全面改正、さらに平成22年カード方式による「VRTカード」も開発され、今日に至っている。
 VRTテストは、以来学校進路指導に大きな影響を与え、今日に至っている。

(3)VPI職業興味検査(VPI)

雇用職業総合研究所(現労働政策研究・研修機構)の10年にわたる研究を経て昭和60年(1985)、大学生の進路指導、ガイダンスの用具として開発、公表された。
 160の具体的職業に対する個人の興味・関心の強さを測定するとともに、合わせて心理的傾向を5領域について把握する。
 大学における進路指導がとかく就職指導に偏り、個性理解の具体的道具が乏しい現状にあって、開発以来、大学生、社会人、就職希望者に大きな関心が持たれ、広く活用されている。

(4)中高年齢求職者等のための調査票

昭和50年代に入って、中高年齢者に対する雇用対策の必要性がにわかに高まり、職業研究所(現労働政策研究・研修機構)でも、加齢研究、職務再設計、高齢者の健康・体力・求職活動などの研究が活発に行われた。その成果として、次の2つのテストが作成された。

① 中高年齢者就職指導用健康・体力質問票:血圧等健康状態、日常身体状況、心身の健康意識を質問形式で把握する。

② 中高年齢者就職指導用職業興味検査:興味と仕事の内容の一致性を、定型反復性、容易性、能力発揮性、対人性、現業性、斬新性の6分野で把握すもの。

(5)障害者用就職レディネス・チェックリスト(ERCD)

障害者雇用促進法は、「公共職業安定所は、障害者がその能力に適合する職業に就くことができるようにするために適性検査を実施し、雇用情報を提供し、障害者に適応した職業指導を行う等必要な措置を講ずるものとする。」(法第11条)と規定している。
 この目標に向けて昭和62年(1987)に開発されたものが「障害者用就職レディネス・チェックリスト」(Employment Readiness Checklist for Disabled:ERCD)である。一般属性、就業への意欲、職業生活の維持、移動、社会生活や課題の遂行、手の機能、姿勢の維持力、情報の受容と伝達、理解と学習能力の9領域44項目からできている

(6)職種別職業紹介用チェックポイント

公共職業安定所の職業紹介にあたって、職務内容の適格な把握が重要なことは言うまでもない。急激な技術革新の進展などによる職務内容の変化、新しい職務の発生、ハローワーク・インターネット・システムなどによる求人の民間職業紹介所への公開などにより、その必要性は時代とともに広まってきた。
 これに対応するため各地の職業安定所、雇用職業総合研究所(現労働政策研究・研修機構)の共同研究により、昭和63年(1988)「職種別職業紹介用チェックポイント」が作成された。職種別に具体的な質問のポイント、関係資料、職業ハンドブックとの関連、カタカナ職業の解説などが記載されている。平成5年(1993)に改定、平成19年(2007)には、IT編、介護・福祉編が作成、公開されている。

(7)コンピュータによる「職業ガイダンス・システム」

「職業ガイダンス・システム」は、昭和62年(1987)雇用職業総合研究所(現労働政策研究・研修機構)で開発され、東京、大阪、名古屋、沖縄で活用され、昭和63年(1988)全国の都道府県センターで活用が開始された。
 システムは、「適職自己診断システム」と「カウンセラー・サポート・システム」から成り立っている。
 「適職自己診断システム」は、コンピュータ版レディネス・テスト、キャリア・アセスメント・プログラム、キャリア・シミュレーション・ゲーム等のシステムから成り立っている。
 「カウンセラー・サポートシステム」は心理テストのコンピュータ処理、相談記録のデータベース化、相談実施状況等の統計処理、職業情報の外部情報のオンライン化から成り立っている。

このシステムは、平成16年(2004)「キャリア・インサイト」、平成19年(2007)中高年齢者向きの「キャリア・インサイトMC」、平成26年(2014)「キャリア・インサイト統合版」へと、より精緻化、統合化された「職業ガイダンス・システム」へと発展している。

V 適性検査等の開発の系譜

自己理解のための適性検査等の開発の系譜は、次の通りである。

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適性検査等の開発の系譜

《引用・参考文献》

1 独立行政法人労働政策研究・研修機構労働大学校「職業指導の理論と実際 平成26年度版」
〈労働大学校における職員研修テキストのため購入することはできない〉

2 木村 周 「キャリア・コンサルティングの理論と実際(3訂版)」2013(一般社団法人)雇用問題研究会

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