わが国職業紹介・職業指導の系譜 ―その過去、現在、未来―

第11回 労働力需給調整システム

労働力需給調整とは、労働力を需要する側(人を求めている事業所)と労働力を供給する側(働こうとする求職者)との間に立って、両者が円滑に結合するよう調整することである。
 現在、法律等で制度化されている労働力需給調整システムには、職業紹介事業(有料、無料)、労働者供給事業、労働者募集、労働者派遣事業がある。今回はこれらの労働力需給調整事業について、その要点を解説する。

Ⅰ 公共職業安定機関以外の者が行う職業紹介事業

1 有料職業紹介事業

(1)有料職業職業を行おうとする者は、職業安定法30条に基づき、厚生労働大臣の許可を受けなければならない。

(2)有料職業紹介事業者が取り扱う職業については、職業安定法第32条の11の規定により、港湾運送業務に就く職業、、建設業務に就く職業、その他労働者の保護に支障を及ぼす恐れがあるものとして労働省令で定める職業については、取り扱うことは禁止されている。

(3)有料職業紹介事業所数は、平成27年3月末現在17,315事業所である。

(4)有料職業紹介事業は、平成16年次のような改正が成された。

① 事業の許可について、事業所単位から事業主単位へ。

② 保証金制度の排紙。

③ 手数料を徴収できる求職者として、熟練技能者の職業にかかる求職者を追加。手数料徴収にかかる年収要件を1,200万円から700万円に引き下げ。

④ 職業紹介事業と、料理店業、飲食店業、旅館業、古物商、質屋業、貸金業、両替業その他これらに類する営業との兼業禁止規制が廃された。

⑤ 業務統括責任者を、業務従事者50人当たり1人以上とすること(従来は500人に1人)。

⑥ 職業紹介責任者講習の有効期間が5年に延長された(従来は2年)

2 無料職業紹介事業

(1)職業安定法第33条の2,同第33条の3、同33条の4に規定する学校等、特別の法人、地方公共団体等は、厚生労働大臣に届け出を出してこれを行う場合を除いて、法第33条に基づきの許可を受けて無料職業紹介事業を行うことができる。
 無料職業紹介事業所は、平成27年3月、又は4月現在、学校等5,207事業所、特別の法人2,009法人、地方公共団体(44道府県、4区、101市、54町、7村、1組合)、学校等、特別の法人地方公共団体以外の者912事業所である。

3 特別の法人の行う無料職業所紹介事業

(1)商工会議所、農協等の特別の法律により設立された法人であって厚生労働省令で定めるものは、法第33条の3に基づき厚生労働大臣に届け出て、当該法人の直接若しくは間接の構成員を求人者とし、当該法人の直接若しくは間接の構成員に雇用されている者を求職者とする無料職業紹介事業を行うことができる。

(2)厚生労働省令で定めるものとは、以下の法人で構成員の数が10以上のものである。農業協同組合、農業協同組合連合会、漁業協同組合、水産加工協同組合、漁業協同組合連合会、水産加工共同組合連合会、中小企業等協同組合、中小企業団体中央会及び協同組合連合、商工会議所及び日本商工会議所、商工組合、商工組合連合会、商工会、商工会連合会、森林組合、森林組合連合会。

II 労働者派遣事業

1 制度の趣旨

技術革新等の進展に伴い、企業側は専門的な知識、経験等を必要とする業務が増加し、一方労働者側には、自己の都合のいい日時や都合の良い場所で、専門的知識、技術、経験等を生かして就業を希望する労働者層が増加してきている。このような労使双方のニーズに対応して発生してきたの労働者派遣事業である。
 しかし、一方、労働者供給事業を禁止(法44条)していることとの関係で問題を生ずる恐れがある。また、労働者に対する使用者責任は派遣会社の雇用主にある一方、実際の労働は派遣先で行われるため、具体的な就業条件、労働基準法等に定める労働条件の使用者責任の曖昧性などは、制度発足以来問題とされてきた。

このような状況に対応するため、昭和60年7月「労働者派遣事業の適切な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」が制定された。以来数次の改正により今日に至っている。
 特に平成24年改定においては、「いわゆる専門26業務に該当するかどうかによって派遣期間の取り扱いが大きく変わる制度について、速やかに見直しの検討を行うこと」という付帯決議によって、派遣労働者の一層の雇用の安定、保護等を図る対策が進められた。

このような経過を経て、平成27年度法改正により、労働者派遣事業の許可制への一本化、雇用安定措置の創設、キャリアアップ措置の創設、派遣期間規制の見直し、派遣労働者の均等待遇措置の強化などが現在進められている。

2 現在の制度の要点

(1)労働者派遣の定義

労働者派遣とは、自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ他人の指揮命令を受けて、当該他人のために従事させることをいう。

(2)紹介予定派遣の定義

紹介予定派遣とは、労働者派遣のうち、派遣元事業主が労働者派遣の開始又は開始後に、派遣労働者及び派遣先について、許可を受け又は届け出て職業紹介(派遣労働者・派遣先の間の雇用関係の成立のあっせん)を行い、又は行うことを予定して行うことである。
 なお紹介予定派遣労働者であるかどうかは重要な労働条件であるので、派遣元事業主は、紹介予定労働者を雇い入れる場合は、派遣労働者にその旨を明示すること。すでに雇い入れている派遣労働者を新たに紹介派遣予定労働者の対象者にする場合は、その旨を労働者に明示し、同意をえること。

(3)事業規制

1)労働者派遣を行えない事業所
 港湾運送業務、建設業務、警備業務、病院等における医療関係業務等について労働者派遣事業は(適用除外業務)禁止されている。

2)労働者派遣事業を、対象者を常用雇用者のみを対象とする特定労働者派遣事業と、それ以外の一般労働者派遣事業(いわゆる登録型派遣労働事業)に区分し、事業主単位で前者は届け出制、後者は許可制により事業を開始させる。
 なお、平成27年改正により、特定労働者派遣事業と一般労働者派遣事業者の区別が廃止されて、全ての労働者派遣事業は許可制に一本化されたが、経過処置として平成27年9月30日時点で届け出により特定労働者派遣事業を営む事業所については、平成30年9月30日までは、引き続き事業を行うことができる。

3)派遣労働を行う者についてに欠格事由等を定めるとともに、厚生労働大臣が事業の改善命令、停止命令等の措置を行うことができることとした。

4)毎年労働者派遣事業報告書、収支決算書、関係派遣事業派遣割合報告書の提出を義務づけた。

5)専ら特定の者に対する労働者派遣の役務の提供を目的として労働者派遣が行われているときは、厚生労働大臣は、その目的、内容についての変更を勧告できる。

6)厚生労働大臣は、派遣労働者を適用除外の業務に従事させたり、無許可・無届けの事業主から派遣労働の派遣を受け入れたときは、これらの違反を是正、防止するため、勧告・公表を行うことができる。

(4)労働者派遣事業制度の適正な運営

労働者派遣事業適正運営協力員、派遣元責任者講習の実施、労働者派遣事業アドバイザーの設置などの各種の適正化制度を行っている。
 平成27年3月現在一般労働者派遣事業所数17,596、特定労働者派遣事業所数67,631となっている。

III 労働者募集

職業安定法において規定されている労働者募集には、文書募集、直接募集、委託募集の3種類があり、文書募集及び直接募集は自由に行うことができ、委託募集は許可制または届出制となっている。
 文書募集については、労働者の適切な職業選択に資するため、募集に係る従事すべき業務の内容等について誤解を生じさせることがないように平易な表現を用いる等、的確な表示に努めなければならないこととされている。
 文書募集の媒体には、新聞、雑誌、ビラ、ちらし等があるが、特に求人誌に対しては、求人広告内容の適正化の自主努力を促すために、全国求人情報協会を通じて、掲載基準の作成や審査基準の設置等を進めるなど指導、助言を行っているところである。なお、インターネット、パソコン通信等を利用して行う募集も文書募集と同様に取り扱われる。

IV 労働者供給事業

職業安定法は、労働組合法による労働組合その他これに順ずる団体が、厚生労働大臣の許可を受けて無料で行う場合を除き、又はその労働者供給事業を行う者から供給される労働者を使用してはならないと規定している。
 なお、労働組合に準ずる団体とは、職員団体、地域レベルの労働団体である。
平成27年3月現在、許可を受けて労働者供給事業を行っている労働組合等は、92組合である。

なお、労働力需給システムの全体像は 下掲「労働力需給システムの現状(体系図)」の通りである。

労働力需給システムの現状(体系図)

《引用・参考文献》

1 (独立行政法人)労働政策研究・研修機構「職業指導の理論と実際」 2016年、労働政策研究・研修機構テキスト

2 木村 周 「キャリアコンサルティングの理論と実際(4訂版)」 2016年、(一般社団法人)雇用問題研究会

《このシリーズ終了》

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