わが国職業紹介・職業指導の系譜 ―その過去、現在、未来―

第5回 職務分析・職業情報の開発と活用

I 職務分析の実施と職務解説書

1 職務分析

職業安定法は、「職業安定主管局長は、職業に関する調査研究の成果等に基づき、職業紹介事業、労働者の募集及び労働者供給事業に共通して使用されるべき標準職業名を定め、職業解説及び職業分類表を作成し、並びにそれらの普及に努めなければならない。」(法第15条)と定めている。

この規程に基づき、昭和23年(1948年)その基礎的技法とも言うべき職務分析が開始された。職務分析とは「分析者がその分析の対象とする職務について、観察をもとにして、当該職務を特徴づける一連の諸要因について考察を施すことによって、当該職務の内容、性質を明らかにし、かつ、それを適切な記述資料に作成する手続き」である。
 戦後我が国でまず行われた職務分析は、労働省方式職務分析で3部門4方式により次の4つの調査票を作成する。
 ① 事業所調査票(事業内容と業務組織、従業者数、分課組織、生産工程、職務表)
 ② 職務分析表(職務、作業遂行に必要な事項、作業者の所要資格)
 ③ 作業者の身体的要件分析票(身体動作、作業環境、作業が身体に及ぼす影響)
 ④ 作業者の特質分析(所要特質)
 労働省方式職務分析の手引きとしては、(一社)雇用問題研究会「職務分析の理論と実際」がある。職業紹介業務は職業の理解なしには成り立たない。その基本的方法が職務分析である。そのために「職業分析関連諸票実務必携」(昭和37年、1962年)、「職務分析のしおり・職務分析員必携」(昭和35年、1960年)などが刊行された。

2 職務解説書

職務分析の実施の成果として作成されたのが「職務解説書」である。
 昭和23年職務分析による資料の収集・作成の事業を労働省として開始して以来、昭和37年に中止するまでの間に刊行された解説書は、173集、36,000ページ(解説職務数8,500)に及んだ。それ自体職業情報として活用されたが、当時の事業所組織、生産工程・作業工程、職務編成、職務内容などを知る貴重な資料となっている。

実際の作業は、旧労働省が全国の職業安定行政職員を対象に、「職務分析講習会」(4~6日)を実施し、受講終了者に職務分析技術認定証を交付し、その人達によって指定された業種、職種の分析が行われ、本省に報告された。

II 職業分類、職業辞典の開発と活用

1 職業分類

職業安定法第15条の規程により職業分類表(以下職業安定行政分類)が初めて編成されたのは昭和28年(1953年)である。仕事の内容と責任の類似性を基本に置き、技能度(技能、半技能、単純技能)に分類を大分類に据えている。収録職務数は34,300にのぼった。
 その後、昭和40年、61年、平成11年の改定を経て現行の平成23年分類に至っている。現行の分類では大分類11、中分類73、小分類369、細分類(代表職業名)892に分類されている。
 一方、行政管理庁は昭和35年(1960年)に、ILO国際標準分類に沿った「日本標準職業分類」を公表し、国勢調査を始め各種の統計の表象はこれに準拠して行われている。

2 職業辞典

職業辞典とは、職業安定行政職業分類とその職業ごとの内容を記述した辞典である。
 わが国で初めて刊行された職業辞典は、昭和25年に編纂に着手し3年にわたる調査、分類、解説等の作業によって昭和28年に完成した。第1部 職業分類、第2部 職業解説の構成となっている。
 続いて、昭和32年に刊行された職業小辞典は、約4,800の代表職業名について仕事内容の詳細な解説を写真を付して解説している。また、昭和40年代には職業分類の全面改定により、職業辞典が再刊行された。平成元年(1989年)には、昭和61年の職業分類の改定に合わせて、集約職業名1,287職業すべてについての職業解説「この仕事はなにをするの」(日本労働研究・研修機構)が刊行された。
 その後も、平成11年直近の国勢調査分類に基づき職業分類の改定が行われ、それをまとめた「職業レファレンスブック」(日本労働研究・研修機構)が公表された。

III 職業情報の開発と活用

1 職業指導用の情報資料

職務分析、職業辞典などの基本的な事業のほかに、職業安定行政は古くから主として学生・生徒の職業指導のための情報資料の開発作成にも継続的に取り組んできた。
 まず昭和31年(1956年)に始められた「職業指導用カラースライド」は、「われらの職業」、「私たちは就職する」、「個性と職業」、「就職1年生」など11集に及んだ。
 また、昭和38年から5年間ほどに作成された「産業職業図鑑」は生産工程、作業系統と職種を関連づけて図解することを主眼としたユニークな情報資料である。

昭和44年(1969年)職業研究所が発足した。職業研究は、職業適性、職業紹介の3つの主要研究分野であったが、その最初の研究成果が昭和49年「新時代の職業」である。1960年に入って技術革新や第三次産業の発展によって登場した多くの先端職業の解説書である。コンピュータ、金属加工、装置産業、営業販売、対事業所サービス、レジャー産業、生活基盤保全の7つの職業分野、その中の先端職業65職業について仕事の内容、所要の学歴・訓練・経験、重視される特性・能力、身体要件と作業環境、現状と将来の5項目の解説をしたものである。
 この流れは、その後昭和52~54年にかけて職業情報シリーズ「職場としごと」全30巻となって完成することになる。

2 職業ハンドブックの作成と活用

職業情報の開発、活用のうち最近における最も大規模な事業は、昭和56年から現在に至る「職業ハンドブック」の開発と活用である。この事業が開始された経緯について簡単に述べる。
 第1は、昭和54年に策定された第4次雇用対策基本計画で、「雇用、職業構造の見直しの作成と職業情報の整備」が掲げられたことである。具体的には将来の雇用及び職業別の需給バランスの見通しを明らかにする。そのために今後発展すると予想される業種についてその業務内容、資格制度、必要な教育訓練等を明らかにし、それを情報化すること。
 第2は、雇用開発委員会から昭和55年緊急な課題として、職業ハンドブックの作成を中心とする「職業情報の開発の方向について」が提言がなされた。
 第3は、これを受けて労働省と職業研究所が一体となって職業ハンドブック作成事業が昭和55年度から予算措置により開始された。その結果昭和58年度までに合計31分冊、242職種の「職業ハンドブック」が完成した。昭和60年には、全1冊・総集編、平成9年には300職種に拡大し、CD-ROM化されパソコンで利用できるようになり、改善を繰り返し今日に至っている。
 「職業ハンドブック」は米国労働省の「職業展望ハンドブック」(Occupational Outlook Handbook)を参考としつつも永年にわたるわが国の職業研究の成果を踏まえ、独自の調査内容に乗った唯一の本格的な職業情報である。平成18年この職業情報の探索機能と心理テストなどの適性診断機能を合わせ持った総合職業情報システム「キャリアマトリックス」が開発されたが、その後の行政刷新会議の事業仕分けにより平成22年廃止された。

3 勤労意識啓発ビデオの開発

平成15年「職業総合拠点」の「私のしごと館」の設立と関連し、職業を分りやすく紹介したビデオ「しごとライブラリー」やインターネットで職業情報や映像を見られる「ジョブジョブワールド」が開発され、各地のハローワークなどで活用された。
 平成22年の「私のしごと館」の閉鎖に伴い、このVTR を見られるところは限られている。

以上、職業安定行政における職業研究と職業情報の開発の活用について概観した、図表化したものが、IV 「職業研究・職業情報の開発の系譜概要」である。

IV 職業研究・職業情報の開発の系譜概要

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職業研究・職業情報の開発の系譜概要

《引用・参考文献》

1 独立行政法人 労働政策研究・研修機構「2014 職業指導の理論と実際」 独立行政法人労働政策研究・研修機構・労働大学校

2 木村 周 「2015 キャリア・コンサルティングの理論と実際(3訂版)」 一般社団法人 雇用問題研究会

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