わが国職業紹介・職業指導の系譜 ―その過去、現在、未来―

第2回 職業指導・職業紹介の発生と法的根拠(その1)

I 職業指導・職業紹介の発展と現状における法的根拠

1 職業指導の概念

カウンセリングの3つの源流が「職業指導運動」、「心理測定運動」、「精神衛生運動」であることは広く知られている。それぞれの分野が職業指導、心理測定、精神衛生運動という広い歴史的な背景と運動を基に発展してきた。この中で職業指導・職業紹介と直接関わるのは「職業指導運動」である。

「職業指導運動」は、19世紀初頭社会改良主義者だったF・パースンズ(Parsons,F)が「単に仕事を見つけるだけではなく、職業を選択することが望ましい」という立場で開始された。それがアメリカ行政、社会において職業教育やキャリア教育に発展した。このことについては前回述べた。

2 アメリカにおけるキャリア・ガイダンスの定義

職業指導からキャリア・ガイダンスへ
 もともとアメリカで発達したキャリア・ガイダンスは、職業指導(Vocational Guidance)からキャリア・ガイダンス(Career Guidance)への発展の歴史である。
 1950年代までの職業指導の代表的な定義は、「個人が一つの職業を選び、それに向かう準備をし、その生活に入り、かつその生活において進歩するよう、個人を援助する過程である」(全米職業指導協会 1937)である。まさに、今日の職業指導・職業紹介そのものある。

この定義にキャリアの概念を導入したのは、スーパー(Super.D.E.)の「職業指導の再定義」だと言われている。そこでは「キャリア・ガイダンスとは、個人が自分自身と職業の世界における自分の役割について、統合され、かつ妥当な映像を発展させ、また受容すること、この概念を現実に照らして吟味すること、及び自分自身にとっても満足であり、社会ににとっても利益があるように、自己概念を現実に転ずるよう援助する過程である。」と定義している。
 この定義は、キャリア・ガイダンスに自己概念、キャリア、個人と社会、ひいては人生を通じた発達などの概念を導入したものであり、職業指導・職業紹介を単なるマッチングから人生を通じたキャリア発達へと発展させたものである。

II わが国における進路指導、職業指導・職業紹介、キャリア・コンサルティング

アメリカにおけるキャリア・ガイダンスの発展は、わが国に導入され、3つの領域において法律に基づく進路指導、職業指導・就職支援、および職業能力開発として行われ発展している。

1 学校における進路指導、キャリア教育

学校教育法は、小学校、中学校、高校、高等専門学校、専修学校、短大、大学、大学院にいたるまで進路指導とキャリア教育は教育目標の1つとして法律によってそれを実施すべきことを規定している。
 例えば、「職業についての基礎的な知識と技能、勤労を重んずる態度及び個性に応じて将来の進路を選択する能力を養うこと」(小学、中学の場合)と規定し、その具体的展開は学習指導要領などで規定している。高校、専門学校、大学についても同様である。
 平成11年以降、進路指導に加えキャリア教育の実施が累次にわたる中央教育審議会答申によって実施されることになった。発端になったのは「初等中等教育と高等教育との接続の改善について」(平成11年中教審)で、キャリア教育を小学校から発達段階に応じて行うこと、家庭、地域と連携して体験的な学習を行うことなどが求められた。
 また、そのため育成すべき能力(competency)は、人間関係形成能力、情報活用力、将来設計能力、意志決定能力の4つであることを強調している(平成14年国立教育政策研究所)。
 大学においても「学術の中心として、広く知識を授けるとともに、深く専門の学芸を教授研究し、知的、道徳的及び応用能力を展開させること」(学校教育法83条)と規定し、大学における進路指導、キャリア教育を促している。

進路指導の具体的内容は学習指導要領や進路指導の手引きに定められている。基本は「生徒の個人資料、進路情報、啓発的経験及び相談を通して、生徒自ら、将来の進路を選択・計画し、就職または進学して、さらにその後の生活によりよく適応し、進歩する能力を伸張するように、教師が組織的、継続的に指導・援助する過程である」(中学・高校進路指導の手引き 1987年)で示されて以来基本は変わっていない。

キャリア教育の具体的展開も、進路指導をを中核として、その重点を下記のことに置いて行うこととされている(中教審「今後の学校におけるキャリア教育・職業教育のあり方についての答申」平成23年)。

① 学校から社会への移行を円滑に行うために、キャリア教育、職業教育を充実する。

② 幼児期から高等教育まで発達段階に応じて、さまざまな活動を通じて基礎的、汎用的能力を養う。

③ 職業教育の意義を再確認する。

④ 社会への移行後の学習者、中途退学者、無業者などの支援機能を充実する。

⑤ 家庭、地域、企業、経済団体、職能団体他、NPOなどと連携し、一体となって取り組む。

2 職業安定行政における職業指導・職業紹介

雇用政策の基本法である雇用対策法は、求職者に対する指導について、「職業紹介機関は、求職者に対して、雇用情報、職業に関する調査研究の成果等を提供し、かつ、これに基づき職種、就職地その他の求職の内容、必要な技能等について指導することにより、求職者がその適性、能力、経験、技能の程度等にふさわしい職業を選択することを促進し、もって職業選択の自由が積極的に生かされるように努めなければならない。」(法第13条)と規定している。これが職業安定行政における職業指導・職業紹介の基本的根拠である。
 これに関連し雇用対策法は国が行うべき事項として、雇用情報(第11条)、職業に関する調査研究(第12条)、求職者に対する指導(第13条)、求人者に対する指導(第14条)、雇用に関する援助(第15条)を定めている。

職業安定行政の職業指導・職業紹介の具体的展開は、職業安定法に定められている。
 まず、職業指導については「公共職業安定所は、身体又は精神に障害のある者、新たに職業に就こうとする者その他職業に就くことについて特別の指導を加えることを必要とする者に対し、職業指導を行わなければならない。」(法第22条)と定めている。
 そのうえで「「職業指導」とは、職業に就こうとする者に対し、実習、講習、指示、助言、情報の提供その他の方法により、その者の能力に適合する職業の選択を容易にさせ、及びその職業に対する適応性を増大させるために行う指導をいう。」(法第4条④)と規定されている。
 ここでは、職業指導と職業紹介は一体として行われるものであり、分離できないものであることを前提としている。

職業安定法は、そのうえで職業安定機関と職業紹介事業者等の協力(法第5条の2)、労働条件の明示(法第5条の3)、求職者等の個人情報の取扱い(法第5条の4)、求人の申込み(法第5条の5)、求職の申込み(法第5条の6)、求職者の能力に適合する職業の紹介等(法第5条の7)、標準職業名等(法第15条)、職業紹介等の基準(法第16条)、適性検査(法第23条)、学生生徒の職業紹介等(法第26条)など職業指導・職業紹介の具体的内容や実施について規定している。

さらに職業指導・職業紹介の具体的実施方法等については、戦後昭和23年新しい職業安定行政が発足以来、求職者の種類により一般職業紹介要領、新規学校卒業者職業紹介要領、障害者職業紹介要領が作成され、改定を行いながら今日にいたっている。

例えば、一般職業紹介業務の例でみると、

① 公共職業安定所の職業紹介業務のあり方

② 求職に関する取り扱い

③ 求人者に関する取り扱い

④ 職業紹介に関する取り扱い

⑤ 関係機関との連携・協力

⑥ 主な帳票類の様式及び記入要領

に分けて詳細に記述され、その基準に従って全国のハローワーク等が職業指導・職業紹介業務を行っている。

3 職業能力開発におけるキャリア・コンサルティング

雇用政策の基本法である雇用対策法は、雇用対策の基本理念を「労働者は、その職業生活の設計が適切に行われ、並びにその設計に即した能力の開発及び向上並びに転職に当たっての円滑な再就職の促進その他の措置が効果的に実施されることにより、職業生活の全期間を通じて、その職業の安定が図られるように配慮されるものとする。」(法第3条)と宣言している。
 労働者の職業能力開発について直接規定する職業能力開発促進法においては、「そのために必要な職業訓練及び職業に関する教育訓練の機会が確保され、必要な実務の経験、職業に必要な技能、知識の適正な評価が図られなければならない。」(法第3条の2)と、その具体的な方針を規定している。

平成13年、技術革新、産業構造の変化、労働者の意識の多様化に対応するため、職業能力開発促進法が、次のような観点から大幅の改正が行われた。

① 労働者の職業能力開発、労働者の業務内容の変化、適応性、円滑な再就職に資するよう労働者の職業生活設計に配慮して行うこと。

② 職業訓練の機会が確保され、必要な実務経験が行われ、習得された技能、知識が評価されること。

③ 事業主は、そのための情報の提供、相談その他の援助及び労働者の配慮などの雇用管理について配慮すること。

④ 職業能力評価基準の整備、評価方法の充実、技能検定制度の民間への委託など職業能力評価の普及を図ること。

上記の中の③が事業主が労働者に対して行う「キャリア・コンサルティング」である。
 キャリアコンサルティングとは、「個人がその適性や職業経験等に応じて自ら職業生活設計を行い、これに即した職業選択や職業訓練の受講等の職業能力開発を効果的に行うことができるよう、労働者の希望に応じて実施される相談その他の援助をいう」(第7次、第8次職業能力開発基本計画)と定義された。
 これは広い意味の「キャリア・ガイダンス & カウンセリング」すなわち、職業指導・職業紹介そのものである。

今日生涯を通じたキャリア形成の必要性が広く求められている。学校教育における進路指導、キャリア教育、職を求めている人に対する職業指導・職業紹介、就職した後の職業能力開発が一連の連続性をもって、個人に対して行わなければならない。この意味で学校、就職支援機関、企業など職業能力開発に当たる組織は充分の連携の基に個人を支援しなければならない。

今回はそのような視点に立って、それぞれの法的根拠と実施すべき内容について解説した。

《引用・参考文献》

1 木村 周「キャリア・コンサルティング 理論と実際(3訂版)」 2013 一般社団法人雇用問題研究会

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