第11回 事業譲渡、合併、会社分割等における紹介事業の許可等の取扱い
近年、紹介業者が、その行う有料職業紹介事業を事業譲渡する、他の会社と合併する、あるいは会社分割することがみられようになっていることから、この場合における有料職業紹介事業の許可の取扱い、あるいは求人者・求職者との関係について検討し、紹介事業の適正な運営確保の一助としたい。
1 事業譲渡の場合(会社法467条1項(注1))
イ 事業譲渡先の会社が有料職業紹介事業の許可を取得しているとき
事業譲渡先の会社は、新たに許可を取得する必要はない。ただし、法人の役員変更、事業所の増減等があれば、これらについて届出を要する。
ロ 事業譲渡先の会社が有料職業紹介事業の許可を取得していないとき
事業譲渡先の会社は、新たに許可を取得する必要がある。
なお、いずれの場合も、事業譲渡をした会社(個人事業主を含む。なお、個人事業主の場合は営業譲渡という)は、別段の意思表示がない限り、同一の市町村の区域内及び隣接する市町村の区域内で、20年間同一の有料職業紹介事業を行うことが禁止される(会社法21条、商法16条)。
事業譲渡を行う紹介業者に登録をしている求人者・求職者との紹介契約は、個々の求人者・求職者の同意を得たうえで、当該紹介業者と事業譲渡先の会社との事業譲渡契約で事業譲渡先の会社に引き継がれる旨が定められた時は、事業譲渡先の会社に引き継がれることになる。
2 合併の場合
合併とは、2以上の会社が、契約により、1の会社となることをいい、1の会社に他の会社が吸収される吸収合併と2以上の会社がすべて解散し1の会社になる新設合併とがある。
(1)吸収合併(会社法2条27号)の場合
イ 存続会社が有料職業紹介事業の許可を取得しているとき
存続会社は、新たに許可を取得する必要はない。ただし、法人の名称等に変更があれば、これらについて届出を要する。
ロ 存続会社が有料職業紹介事業の許可を取得していないとき
存続会社は、新たに許可を取得する必要がある。
なお、許可の期間に空白を生じることを避けるため、合併の日付と同日付で許可が可能となるよう、存続会社において事前に許可申請を行うこととされている。この際、合併により事業開始予定日まで又は事業開始予定日付で法人の名称、住所、代表者、役員、紹介責任者が変更するときであって、これらの事項について許可申請時に合併を決議した株主総会議事録等により、当該変更を確認できるときは、許可申請書に変更後のものを記載し、変更後直ちにその申請内容に相違なかった旨の報告をすればよいとの取扱いが認められている。
(2)新設合併(会社法2条28号)の場合
新設会社は、新たに許可を取得する必要がある。
この場合、(1)ロと同様の手続きにより事前に許可申請を行う必要があるが、申請時には新法人の主体がないため、特例的に合併後の予定に基づいて申請書等を記載し、新法人(新設会社)設立後、予定どおり設立された旨の報告をすればよいとの取扱いが認められている。
(3)いずれの場合においても、消滅会社に登録をしている求人者・求職者との紹介契約は、合併により、自動的に存続会社(会社法750条1項・752条1項)、新設会社(会社法754条1項・756条1項)に引き継がれることになる。なお、求人者・求職者が引き継がれることを望まないときは、いつでも紹介契約を解除できる(民法651条)。
3 会社分割の場合
会社分割とは、1の会社を分割し、2以上の会社に分けることをいい、既存の会社(分割会社)の事業の一部又は全部を他の既存会社(承継会社)に承継させる吸収分割と分割会社がその事業の一部又は全部を新しく設立した会社(新設会社)に承継させる新設分割とがある。
(1)吸収分割(会社法2条29号)の場合
イ 承継会社が有料職業紹介事業の許可を取得しているとき
承継会社は、新たに許可を取得する必要はない。ただし、法人の名称等に変更があれば、これらについて届出を要する。
ロ 承継会社が有料職業紹介事業の許可を取得していないとき
承継会社は、新たに許可を取得する必要がある。
この場合、2(1)ロに準じた取扱いが認められている。
(2)新設分割(会社法2条30号)の場合
分割により新たに設立した会社は、新たに許可を取得する必要がある。
この場合、2(2)に準じた取扱いが認められている。
(3)いずれの場合においても、分割される会社に登録をしている求人者・求職者との紹介契約は、分割により、吸収分割契約あるいは新設分割計画の定めにしたがい(会社法764条1項、766条1項)、自動的に承継会社・新設会社に引き継がれることになる。なお、求人者・求職者が引き継がれることを望まないときは、いつでも紹介契約を解除できる(民法651条)。
4 組織変更等の場合
(1)個人の紹介事業所が、法人化する場合は、新たに許可を取得する必要がある。
なお、この場合には、個人の紹介事業所に登録をしている求人者・求職者は、改めて、法人化された会社に登録をしなおすことが必要となる。
(2)
イ 特例有限会社(現在有限会社は廃止されており、従前の有限会社はすべて自動的に特例有限会社となっている。なお、特例有限会社は、いつでも定款を変更して株式会社に商号変更・登記することができるとされている)から株式会社への商号変更、持分会社の種類の変更(合名会社、合資会社、合同会社間での変更をいう。(注2))については、変更に伴い、許可要件を欠くことがないときは、新たに許可を取得する必要はないが、事業者の名称、事業所の名称に係る変更届出を要する。なお、この場合には、求人者・求職者との紹介契約は、当該変更に伴い、変更後の会社に自動的に引き継がれる。
ロ また、持分会社から株式会社への組織変更(その逆も同じ(会社法2条26号))の場合は、新たに許可を取得する必要があるとの運用がなされている。この場合には、紹介事業の許可を条件に、求人者・求職者との紹介契約は、組織変更後の会社に引き継がれると考えられる。
ハ なお、上記いずれの場合にも、求人者・求職者が引き継がれることを望まないときは、いつでも紹介契約を解除できる(民法651条)。
5 終わりに
以上述べたように、有料職業紹介事業の許可を有していない事業者(新設合併、新設分割、組織変更の場合の新事業者を含む)が、事業譲渡、合併、会社分割、組織変更により、新たに有料職業紹介事業を行おうとする場合には、自ら新たに許可を取得することが必要となる(既存の許可は引き継がれない)。
また、有料職業紹介事業を事業譲渡等しようとする事業者に登録をしている求人者・求職者との紹介契約は、上記に述べたところにより、新たな会社への引き継ぎが決まることとなる。
(注1)事業譲渡について
最高裁判決では、次のように解されている(最大判昭和40年9月22日)
「一定の営業目的のため組織化され、有機的一体として機能する財産(得意先関係等の経済的価値のある事実関係を含む)の全部または重要な一部を譲渡し、これによって、譲渡会社がその財産によって営んでいた営業的活動の全部または重要な一部を譲受人に受け継がせ、譲渡会社がその譲渡の限度に応じ法律上当然に同法(商法)25条(会社法21条)に定める競業避止義務を負う結果を伴うものをいう」
(注2)持分会社について
・合名会社とは、無限責任社員だけからなる持分会社のことをいう(会社法576条2項)
・合資会社とは、無限責任社員と有限責任社員の双方からなる持分会社のことをいう(会社法576条3項)
・合同会社とは、有限責任社員だけからなる持分会社のことをいう(会社法576条4項)