第8回 紹介所と労働組合のかかわり
最近、家政婦(夫)紹介の関係で、求職者である家政婦(夫)さんと紹介先の家庭との間でトラブルが発生し、これをめぐって、家政婦(夫)さんが労働組合(地域を基盤とする、個人でも加入できる合同労組)に加入し、紹介所が当該労働組合から交渉の申し入れを受けるという事例を把握したので、紹介所と労働組合とのかかわりについて検討してみることとしたい。
1 労働組合とは
個々の労働者と使用者との間には、経済的な交渉力の点で大きな差がみられることから、労働者が団結して使用者と労働条件をはじめとする労使関係上の諸問題について対等の立場で交渉できるようにするため、労働者が団結して団体―労働組合―を結成することを認め(憲法28条)、労働条件の維持・向上等を図ることとされている。労働組合はこのようなことを目的に労働者によって結成されるものであるが、使用者からの労働組合の活動に対する様々な妨害行為を禁止することにより、組合活動の自由が保障されている(労働組合法)。この労働組合活動の自由を保障するため、使用者による不当労働行為を違法として禁止する(注1)とともに、労働委員会による救済制度を設けている。
なお、労働組合が、この救済制度の適用を受けるには、労働組合法2条及び5条2項の要件を充たすことが必要である。
2 不当労働行為の禁止
不当労働行為として、使用者が行うことが禁止されている行為は、大別して3類型に分類される(労働組合法7条)。
第1の類型は、不利益取扱いであり、労働者に対し、労働組合員であること等労働組合との間で一定の関係にあることを理由に、解雇、減給等の不利益取扱いを行うことが禁止されている。
第2類型は、団体交渉拒否であり、使用者は労働組合から申し込まれた、労働条件等労使関係上の諸問題に関する団体交渉を正当な理由なく拒否することが禁止されている。
第3類型は、支配介入であり、使用者が労働組合の結成、運営に介入し、あるいは支配することが禁止されている。
これらの禁止されている行為が行われた場合は、労働組合は、労働委員会に不当労働行為救済の申立てをすることができ、申立てに理由があると認められれば、救済命令(解雇、減給等の不利益取扱いをやめること、団体交渉に応ずること、労働組合の結成、運営に介入しあるいは支配しないこと等)が出される。
3 家政婦(夫)紹介所と労働組合との関係
家政婦(夫)紹介所は、家政婦(夫)さんを求人者である個人家庭に紹介しその間に雇用契約が結ばれることをあっせんしているが、家政婦(夫)紹介所と家政婦(夫)さんとの間には雇用契約関係は無いことから不当労働行為の禁止の対象となる使用者・労働者の関係にはないので、家政婦(夫)紹介所と求職者である家政婦(夫)さんとの間で不当労働行為が問題となることはない。
したがって、家政婦(夫)紹介所と紹介した家政婦(夫)さんの加入する労働組合との間で団体交渉が問題となることはないので、当該労働組合から団体交渉の申し入れがあったとしても、これに応ずる義務はない。
4 家政婦(夫)紹介所と求人者である個人家庭との労働組合をめぐる対応
ただ、求人者である個人家庭と紹介した家政婦(夫)さんとの間には雇用契約があるので、求人者である個人家庭は、家政婦(夫)さんの加入する労働組合から団体交渉の申し入れを受けた場合にはこれに応ずる義務がある(労働基準法(116条2項)と異なり、労働組合法には家事使用人の適用除外規定はない)ので、この点をめぐって求人者である個人家庭から紹介所の責任が問われる可能性がある。求人者である個人家庭としては、労働組合からの交渉の申し入れという予想もしていない事態に直面しその対応を迫られることとなり、困惑した求人者としては、紹介所の責任を問うあるいは対応を相談してくることが予想される。
5 家政婦(夫)紹介所の労働組合に対する対応
(1)このような場合、紹介所が求人者に代わって、労働組合からの交渉に応じるということも考えられるが、求人者と家政婦(夫)さんとの間でどのような問題が発生し、この点について労働組合がどのように関与しているのかを、まず紹介所としては、把握する必要がある。
解雇問題なのか、賃金等の労働条件をめぐる問題なのか、業務上災害の問題なのか、それとも労使関係上の問題とはいえない人間関係に関する問題なのか等である。この際、家政婦(夫)さんには労働契約法の適用があるということを念頭におく必要があり、特に労働契約法5条―安全配慮義務、16条・17条・19条―解雇権乱用法理が適用されているので、恣意的な解雇はできず、また仕事中のけが等には賠償責任があることを踏まえた対応が求められる(注2)。なお、労使関係上の問題とは関係の無い人間関係上の問題については、交渉に応ずる義務は無いことに留意する必要がある。
(2)紹介所が、労働組合との交渉をする場合には、紹介所の立場ではなくあくまでも求人者の立場―代理人として交渉するということを最初に明らかにしておくことが大事である(求人者から交渉の委任を受けておくことが必要(注3))。
(3)交渉により求人者に非があると考えられるときは、求人者と相談あるいは説得をし、問題の早期の解決を図るよう努めることが望ましい。
求人者に非が認められないときは、安易な妥協はせず、求人者側の主張を明確に伝えることが大事であるが、どちらに非があるか明確に判断できない、あるいは双方に非があると認められる場合も多いことから、労働組合の対応によっては解決金の支払いでの早期解決を目指すことを考慮することも選択肢の一つとなることもありうるので、この点について求人者とよく相談することが大事である。
6 おわりに
紹介所としては、労使間の問題にみだりに介入することは極力避けるべきである(参考―争議に対する不介入義務―職業安定法20条)が、個人家庭のような労使関係上の問題の取扱いに不慣れな求人者の場合等には、問題の早期・妥当な解決のため、その相談に乗るということもありうることから、労働組合法についての知識も得ておくことが大事となるケースもあるので、機会を見てその習得に努め、業務の円滑な処理を図るよう努力をすることが望まれる。
(注1)我が国の不当労働行為制度は、アメリカの制度と異なり、使用者の行為のみを規制対象としており、労働者による不当労働行為は認められていない。
(注2)個人家庭で働く家政婦(夫)さんには、労働基準法、労災保険法の適用はないが、仕事中のけが等には民事上の賠償責任がある(労働契約法5条)ので、介護関係業務に従事する場合は労災保険法の特別加入制度へ加入できることから、紹介所としては、その加入を検討することが適切である(家政婦(夫)さんが希望する場合は紹介所として加入義務あり。保険料は支払われた賃金額の1000分の7.5以下の額であり、手数料に上乗せして求人者から徴収できる)。
(注3)紹介業者が、求人者の代理人の立場で、労働組合との交渉を行ったとしても、家政婦(夫)さんとの関係では紹介の成立により同人との紹介契約上の善管注意義務はなくなっていることから、同義務違反(民法644条)の問題は生じないと考える。
(参考1)最近、中央労働委員会から、有料職業紹介事業を営んでいる会社を労働組合法上の
使用者に該当するとした命令が出されている(平成24年1月17日命令)。
【命令のポイント】
1 会社は、組合員らとバス会社間の雇用関係の成立をあっせんするという職業紹介の範囲を超えて、組合員らに対するバスガイド業務等の割り振りや賃金等の重要な労働条件を決定していた。従って、会社と組合員らとの間には、労組法の適用がある雇用関係が成立していたといえるから、会社は、組合員らとの関係において、労組法上の使用者に当たる。
2 本件においては、組合加入通知と同時に組合が団体交渉を申し入れたこと、会社顧問が「労働組合を作った者はバス会社が使いたがらない」という趣旨の発言をしたこと、組合員らに乗務(バスガイド・ジュニアの業務)が割り振られなくなった19年9月以降、逆に乗務回数の増えた非組合員がいることが認められる。従って、会社が、19年9月以降、組合員らに乗務が割り振られなくなったことは、組合員らの組合加入等を嫌悪した不当労働行為に当たる。」(平成24年1月18日中央労働委員会新聞発表資料より引用)
(参考2)労働組合法(抄)
(労働組合)
第2条 この法律で「労働組合」とは、労働者が主体となつて自主的に労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的として組織する団体又はその連合団体をいう。但し、左の各号の一に該当するものは、この限りでない。
一 役員、雇入解雇昇進又は異動に関して直接の権限を持つ監督的地位にある労働者、使用者の労働関係についての計画と方針とに関する機密の事項に接し、そのためにその職務上の義務と責任とが当該労働組合の組合員としての誠意と責任とに直接にてい触する監督的地位にある労働者その他使用者の利益を代表する者の参加を許すもの
二 団体の運営のための経費の支出につき使用者の経理上の援助を受けるもの。但し、労働者が労働時間中に時間又は賃金を失うことなく使用者と協議し、又は交渉することを使用者が許すことを妨げるものではなく、且つ、厚生資金又は経済上の不幸若しくは災厄を防止し、若しくは救済するための支出に実際に用いられる福利その他の基金に対する使用者の寄附及び最小限の広さの事務所の供与を除くものとする。
三 共済事業その他福利事業のみを目的とするもの
四 主として政治運動又は社会運動を目的とするもの
(労働組合として設立されたものの取扱)
第5条 労働組合は、労働委員会に証拠を提出して第2条及び第2項の規定に適合することを立証しなければ、この法律に規定する手続に参与する資格を有せず、且つ、この法律に規定する救済を与えられない。但し、第7条第一号の規定に基く個々の労働者に対する保護を否定する趣旨に解釈されるべきではない。
2 労働組合の規約には、左の各号に掲げる規定を含まなければならない。
一 名称
二 主たる事務所の所在地
三 連合団体である労働組合以外の労働組合(以下「単位労働組合」という。)の組合員は、その労働組合のすべての問題に参与する権利及び均等の取扱を受ける権利を有すること。
四 何人も、いかなる場合においても、人種、宗教、性別、門地又は身分によつて組合員たる資格を奪われないこと。
五 単位労働組合にあつては、その役員は、組合員の直接無記名投票により選挙されること、及び連合団体である労働組合又は全国的規模をもつ労働組合にあつては、その役員は、単位労働組合の組合員又はその組合員の直接無記名投票により選挙された代議員の直接無記名投票により選挙されること。
六 総会は、少くとも毎年1回開催すること。
七 すべての財源及び使途、主要な寄附者の氏名並びに現在の経理状況を示す会計報告は、組合員によつて委嘱された職業的に資格がある会計監査人による正確であることの証明書とともに、少くとも毎年1回組合員に公表されること。
八 同盟罷業は、組合員又は組合員の直接無記名投票により選挙された代議員の直接無記名投票の過半数による決定を経なければ開始しないこと。
九 単位労働組合にあつては、その規約は、組合員の直接無記名投票による過半数の支持を得なければ改正しないこと、及び連合団体である労働組合又は全国的規模をもつ労働組合にあつては、その規約は、単位労働組合の組合員又はその組合員の直接無記名投票により選挙された代議員の直接無記名投票による過半数の支持を得なければ改正しないこと。
(不当労働行為)
第7条 使用者は、次の各号に掲げる行為をしてはならない。
一 労働者が労働組合の組合員であること、労働組合に加入し、若しくはこれを結成しようとしたこと若しくは労働組合の正当な行為をしたことの故をもつて、その労働者を解雇し、その他これに対して不利益な取扱いをすること又は労働者が労働組合に加入せず、若しくは労働組合から脱退することを雇用条件とすること。ただし、労働組合が特定の工場事業場に雇用される労働者の過半数を代表する場合において、その労働者がその労働組合の組合員であることを雇用条件とする労働協約を締結することを妨げるものではない。
二 使用者が雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを正当な理由がなくて拒むこと。
三 労働者が労働組合を結成し、若しくは運営することを支配し、若しくはこれに介入すること、又は労働組合の運営のための経費の支払につき経理上の援助を与えること。ただし、労働者が労働時間中に時間又は賃金を失うことなく使用者と協議し、又は交渉することを使用者が許すことを妨げるものではなく、かつ、厚生資金又は経済上の不幸若しくは災厄を防止し、若しくは救済するための支出に実際に用いられる福利その他の基金に対する使用者の寄附及び最小限の広さの事務所の供与を除くものとする。
四 労働者が労働委員会に対し使用者がこの条の規定に違反した旨の申立てをしたこと若しくは中央労働委員会に対し第27条の12第1項の規定による命令に対する再審査の申立てをしたこと又は労働委員会がこれらの申立てに係る調査若しくは審問をし、若しくは当事者に和解を勧め、若しくは労働関係調整法 (昭和21年法律第25号)による労働争議の調整をする場合に労働者が証拠を提示し、若しくは発言をしたことを理由として、その労働者を解雇し、その他これに対して不利益な取扱いをすること。