第15回 障害者雇用において職業紹介業者が留意すべき点について
平成25年に障害者の雇用の促進等に関する法律が改正され、来年(平成28年)4月1日から施行されることになっているが、これに伴い、職業紹介業者として、障害者の方々の紹介に当たって、留意すべき点について、説明することとしたい。
1 障害者の雇用の促進等に関する法律の改正内容
今回の改正では、「障害者の権利に関する条約」(平成18年国際連合で採択)を批准するため(我が国は平成25年12月批准し、同26年2月効力発生)、雇用の分野における障害者に対する差別の禁止及び障害者が職場で働くに当たっての支障を改善するための措置(合理的配慮の提供義務)を定めるほか、障害者の雇用に関する状況に鑑み、精神障害者を雇用率の算定基礎に加える等の措置を講ずるものである。
(1)障害者に対する差別の禁止
雇用の分野において、障害を理由とする差別的取扱いとして禁止されるのは、
① 募集・採用について障害者でない者との均等な機会を付与しないこと
② 賃金の決定・教育訓練の実施・福利厚生施設の利用その他の待遇について障害者でない者と不当に差別的に取扱うこと
とされている(参考1参照)。
なお、職業能力等を適正に評価した結果といった合理的な理由による異なる取扱いは、禁止されていない。
(2)合理的配慮の提供義務
事業主は、障害者が職場で働くに当たっての支障を改善するための措置(募集・採用における均等な機会の確保、均等な待遇の確保・能力の有効な発揮の支障となっている事情の改善のための措置)を講じなければならないものとされている(ただし、事業主に過重な負担を及ぼすこととなる場合は除かれる)(参考2参照)。
なお、事業主は、これらの措置を講ずるに当たっては、障害者の意向を十分に尊重しなければならないとされている。
(3)指針の策定と助言、指導又は勧告
厚生労働大臣は、(1)の禁止事項に関し、事業主が適切に対処するために必要な指針(差別の禁止に関する指針)を、また(2)の合理的配慮の提供義務に関し事業主が適切かつ有効な実施を図るために必要な指針(合理的配慮の提供義務に関する指針)を、それぞれ定めるものとされている。また、厚生労働大臣は、必要があると認めるときは、事業主に対し、助言、指導又は勧告を行うことができるとされている。
(4)苦情処理・紛争解決援助
事業主に対し、(1)・(2)に係る障害者からの苦情を自主的に解決するよう努めるべき義務を課すこととしている。
また、(1)・(2)に係る紛争について、個別労働紛争解決促進法の特例を設け、紛争調整委員会による調停や労働局長による勧告等の対象としている。
(5)その他
・障害者の範囲を明確化し、「精神障害」には発達障害が含まれることを明示している(平成25年6月から施行)。
・法定雇用率の算定基礎を見直し、精神障害者を雇用率の算定基礎に加えることとしている(平成30年4月から施行)。
2 障害者の職業紹介に当たって職業紹介業者として留意すべき点について
以上のように、障害者雇用に関し、事業主(求人者)に対し、種々の義務が課されたことを踏まえ、職業紹介業者としては、求人者からの求人申込みについては、次の点に注意を払うことが求められる。
(1)求人者は、障害者であることを理由として、募集・採用をしないことは、禁止されることとなる。したがって、職業紹介業者としては、障害者を排除することを内容とする求人を受理することは、原則違法となるので、求人者にこの旨説明しその理解を得るように努め、理解を得られないときは求人を受理しないこととしなければならない(具体的な判断基準については、参考1参照)。
(2)求人者は、障害者に対して募集・採用における均等な機会を確保することが求められており、このため、例えば①募集内容について音声等で提供すること(視覚障碍者)②面接を筆談等で行うこと(聴覚・言語障害者)等、障害者の障害特性を踏まえた対応をとることが求められているので、職業紹介業者としても、障害をもつ求職者には、紹介を行うに当たっては、その障害特性を踏まえた配慮(求職受理・相談等を筆談で行う等)を行うことが必要となる(具体的な判断基準については、参考2参照)。
この点に関し、職業紹介業者として、適正な紹介を行うため、求人者に対し一定の要請(求人内容の音声化等)をすることも必要になってくるのではと考えられる。
(3)求人者は、均等な待遇の確保・能力の有効な発揮の支障となっている事情の改善のための措置を講じることが求められており、このため、採用後の職場環境・勤務条件等について、例えば出退勤時刻・休暇・休憩に関し体調・通院への配慮(精神障害者等)等障害者の障害特性を踏まえた対応をとることが求められているので、職業紹介業者としても、障害をもつ求職者には、紹介を行うに当たっては、採用後においてもその障害特性を踏まえた配慮が求人者側において適切に講じられているのかについて確認することが必要となる場合もあると考えられる(具体的な判断基準については、参考2参照)。
(4)上記のことを踏まえ、職業紹介業者としては、求人内容から見て、障害者である求職者に適切と思われる求人がある場合には、当該求人者に障害者を紹介するよう努めることも必要になってくるのではと考えられる。なお、この場合、求人者は、障害者である求職者に対し、障害があることを理由に紹介を拒否することはできないので、当該求人者にその旨を説明することも求められると思われる。
3 おわりに
以上のように、障害者の雇用をめぐる環境は、今後大きく変化することとなっているので、職業紹介業者としては、今回の障害者の雇用の促進等に関する法律の改正内容を十分踏まえて、適正な・適切な職業紹介に努めることが求められているところである。
(参考1)差別禁止指針(厚生労働省ホームページより)
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(参考2)合理的配慮指針(厚生労働省ホームページより)
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