職業紹介をめぐる法的な問題等について

第19回 地方分権を踏まえたハローワークの職業紹介等の改革について

地方の自主性・自立性を高め、国・地方の職業紹介の利用者の利便性を高めることを第一義として、職業安定法等の改正を含め、職業紹介等に関し国と地方の連携を抜本的に拡充した新たな制度が、順次実施されているところである。
 そこで、職業紹介事業者の業務運営の参考として、この改革の概要を紹介することとしたい。

1 ハローワークの職業紹介等に係る改革の概要

(1)国と地方が連携して雇用対策を講じるための「雇用対策協定」の法定化により、雇用対策における首長の影響力を強化(雇用対策法の改正―平成28年8月20日施行)

全国ネットワークで職業紹介・雇用保険を一体的に行う国と、地域の実情に応じた各種対策を行う地方公共団体が、それぞれの役割を果たすとともに、一緒になって雇用対策に取り組み、地域の課題に対応するため、国と地方公共団体が「雇用対策協定」を締結する。協定の内容について首長から法令に基づく要請を受けた都道府県労働局長は、合理的な理由がある場合を除き、これをその業務に反映させるよう必要な措置を講ずるものとされる。なお、都道府県労働局長が首長の要請に従わないときは、更に厚生労働大臣に要請することができるとされる。このような仕組みを通して、国と地方が連携して雇用対策を講じることを促進しようとするものである。
 なお、法改正前にも、運用により、既に国と地方公共団体との間では「雇用対策協定」が締結されている〔73自治体(26都道府県44市3町)(平成28年2月末現在)〕。
 また、ハローワーク特区では、厚生労働大臣と知事が協定を締結し地方公共団体とハローワークが一体となった住民サービスを提供している(ハローワーク浦和とハローワーク佐賀で実施―平成24年10月より)。なお、この場合は、協定で定めた業務の範囲内で、知事が労働局長を指示できるとされている。

(2)地方公共団体が国と同列の公的な立場で無料職業紹介事業を実施できるよう、届出要件その他各種規制を緩和(職業安定法の改正―平成28年8月20日施行)

地方公共団体が無料職業紹介事業を行う際の届出を廃止し通知制とし、民間職業紹介事業者と同列に課されている規制・監督(職業紹介責任者の選任・帳簿の備付・事業停止命令等)を廃止する。また、国が地方公共団体に求人情報をオンラインで提供する現行の仕組み〔219地方公共団体(43都道府県174市区町村)が利用―平成26年9月1日現在〕を法定化するとともに、求職情報の提供も開始する(平成28年3月から)。さらに、国による雇用保険の失業認定、職業訓練の受講指示、雇用関係助成金の支給手続きについても、地方公共団体の希望を踏まえ、利用者からの十分なニーズが見込まれる場合には、当該地方公共団体が行う無料職業紹介施設において、積極的に取り組む(例:国の職員の配置・巡回等)とされている。

(3)ハローワークの職業紹介と地方公共団体の相談業務等を1か所で行う「利用者の視点に立っての一体的実施」を継続的に展開(雇用対策法の改正―平成28年8月20日施行)

ハローワークの地方移管の検討のため平成23年度から試行的に行ってきた「一体的実施」(ワンストップサービス)について、法定化するとともに引き続き必要な経費を予算措置することで恒久化する。一体的実施とは、地方公共団体の提案に基づき、国と地方公共団体が協議して内容を決定し、協定の締結等により実施に移すものであり、利用者のニーズに応えられるよう運営協議会を設けて行われ、地方公共団体主導で、ハローワークと一体となったさまざまな工夫が可能な事業とされている〔157団体(33道府県124市区町)で実施―平成28年1月末現在〕。
 なお、具体的な実施例では、福祉事務所等にハローワーク窓口を設置し生活保護受給者を支援する取組が多くみられる(180所―平成28年1月末現在)。また、一体的実施施設において、国による雇用保険の失業認定、職業訓練の受講指示、雇用関係助成金の支給手続きについても、地方公共団体の希望を踏まえ、利用者からの十分なニーズが見込まれる場合には、積極的に取り組む(例:国の職員の配置・巡回等)とされている。

(4)国による支援の拡充

地方の職員の研修に協力するとともに、国と地方の人事交流を推進する。また、地方が取り組む雇用対策事業(雇用拡大、人材育成、無料職業紹介、一体的実施等)への支援等を行うとされている。

2 地方公共団体における無料職業紹介の充実・拡大を踏まえた対応

上記のように、今後地方公共団体による無料職業紹介が更に充実・拡大していくことが見込まれるが、このような状況の下で、民間の職業紹介事業者もその事業運営を円滑・適正に行っていかないと、地域住民に身近な存在である地方公共団体による無料職業紹介に求職者・求人者を奪われるおそれもあると思われる。このため、職業紹介事業者としては、これまで以上に適正なサービスの提供に努めていくことがますます大事になってきていると考えられるところである。

(参考)再就職支援を行う職業紹介事業者が、企業が行う退職勧奨に関して提供するサービスに関しての指針について

先般、退職強要と疑われる事案があるとの国会審議等を踏まえて、厚生労働省職業安定局長等から、企業が行う退職勧奨に関して職業紹介事業者が提供するサービスの留意点についての通達が出され(平成28年3月14日職発0314第2号等)、また、これを踏まえて職業紹介事業者の責務等に関する指針(平成11年労働省告示141号)の一部改正が行われたところである(平成28年6月1日より施行)ので、業務の参考までに紹介する。

この改正指針の概要は、次のとおりである。

(1)事業主の依頼に応じて再就職支援を行う職業紹介事業者が、直接労働者の権利を違法に侵害し、又は当該事業主による権利の違法な侵害を助長し、若しくは誘発する次の行為は許されないこと

・当該労働者に対して、退職の強要〔勧奨を受ける者の自由な意思決定を妨げる退職の勧奨であって、民事訴訟において違法とされるもの(注1)〕となり得る行為を直接行うこと

・退職の強要を助長し、又は誘発するマニュアル等を作成し事業主に提供する等、退職の強要を助長し、又は誘発する物又は役務を事業主に提供すること

(2)再就職支援を行う職業紹介事業者が、次に掲げる行為を行うことは不適切であること

・当該労働者に対して、退職の勧奨(退職の強要を除く)を直接行うこと

・事業主に対して、その雇用する労働者に退職の勧奨を行うよう積極的に提案すること

なお、労働移動支援助成金(再就職支援奨励金)の支給に関し、上記の要件に該当する職業紹介事業者から「退職コンサルティング(注2)」を受けた事業主については、不支給とされる。

(注1)下関商業高校事件(最高裁1小判決(昭和55年7月10日))要旨

ことさらに多数回、長期にわたる退職勧奨は、いたずらに被勧奨者の不安感を増し、不当に退職を強要する結果となる可能性が高く、退職勧奨は、被勧奨者の家庭の状況、名誉感情等に十分配慮すべきであり、勧奨者の数、優遇措置の有無等を総合的に勘案し、全体として被勧奨者の自由な意思決定が妨げられる状況であった場合には、当該退職勧奨行為は違法な権利侵害となる。

(注2)労働移動支援助成金(再就職支援奨励金)の取扱いについて(抄)

(職雇移発0401第2号 平成28年4月1日)
労働移動支援室長 

2 退職コンサルティングの範囲

上記1にいう退職コンサルティングの範囲は、次のようなものとすること。

再就職支援を受託する職業紹介事業者が申請事業主に対して、再就職援助計画又は求職活動支援基本計画書の対象となる退職者が具体的に決定する以前に行う働きかけであって、解雇・退職勧奨・希望退職募集等の人員削減に関して、①その実施を提案すること、②制度設計の支援(対象者の選定基準の設定を含む。)をすること、③実施方法(対象者との面接方法を含む。)のコンサルティング(相談・助言・研修、マニュアル・参考資料の提供等)をすることをいう。それが法令違反に該当するか否か、有料であるか否か、契約を交わしているか否か、人員削減方針やその公表があるか否か、人員削減の具体的方法が決定しているか否か、申請事業主の依頼があったか否かを問わない。
 なお、再就職援助計画又は求職活動支援基本計画書の対象となる退職者が具体的に決定する前の接触であっても、人員削減の働きかけを伴わない形で行われる、本助成金の対象者となる退職者が具体的に決定した後に行うこととなる再就職支援サービスや本助成金の内容の説明・情報提供は含まない。

職業紹介をめぐる
法的な問題等について

■第1回
職業紹介の法的性格とその内容
について

■第2回
職業紹介、労働者派遣及び労働
者供給の相互関係

■第3回
職業紹介と消費者契約法等との
関係

■第4回
暴力団関係者からの求人・求職
申込みへの対応について

■第5回
職業紹介における個人情報保護
のあり方について

■第6回
紹介業者の善管注意義務について

■第7回
職業紹介における労働条件等の明示について

■第8回
紹介所と労働組合のかかわり

■第9回
手数料について

■第10回
ハローワークと求人者・求職者の職業紹介を巡る法的関係について

■第11回
事業譲渡、合併、会社分割等における紹介事業の許可等の取扱い

■第12回
固定残業代の記載がある求人票への対応について

■第13回
民法改正案の職業紹介業務への影響について

■第14回
最近の法改正を踏まえた適正な職業紹介業務の遂行について

■第15回
障害者雇用において職業紹介業者が留意すべき点について

■第16回
マイナンバー法施行に伴う職業紹介業者の留意すべき点について

■第17回
現在政府で検討されている職業紹介事業の見直しについて

■第18回
労働関係法令違反があった事業主からの新卒求人の取扱いについて

■第19回
地方分権を踏まえたハローワークの職業紹介等の改革について

■第20回
同一労働同一賃金と職業紹介上の留意点

■第21回
職業紹介事業に関する制度改正についての建議

■第22回
改正個人情報保護法の施行に向けて

■第23回
職業紹介事業に関する制度改正について

■第24回
働き方改革の概要について

■第25回
「職業紹介事業に関する制度改正について」と「改正個人情報保護法の施行に向けて」の改訂について

■第26回
民法改正の職業紹介業務への影響について

■第27回
紹介手数料不払い、求人者の倒産等への対応

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