第9回 手数料について
紹介業者が、紹介に関し徴収することが認められている手数料については、最近問題となる事例(注1)が生じ、厚生労働省の担当部局から通達(注2)が出されたことから、その法的な関係を検討し、適法な紹介の実施の一助としたい。
1 手数料の概要
手数料については、職業安定法でその徴収が認められたもの以外、職業紹介に関し、いかなる名義でも、実費その他の手数料又は報酬を受けることが禁止されている(職業安定法32条の3)。
職業安定法でその徴収が認められた手数料には、求人者から徴収するものと求職者から徴収するものの2種類がある(職業安定法32条の3)。
(1)求人者から徴収する手数料
求人者からの手数料は、届出制手数料と求人受付・上限制紹介手数料に分かれる。実務では、届出制手数料が圧倒的に多く、求人受付・上限制紹介手数料は一部の伝統的職業でみられるのみであり、減少傾向にある。
・届出制手数料は、厚生労働大臣に届け出た範囲内で自由に手数料の額を定め徴収することができる。
徴収は、求人申込受理時以降に可能となる。
・求人受付手数料は、求人受理1回につき690円(免税事業者(注3)は660円)を上限とする。
上限制紹介手数料は、6ヶ月間の賃金の10.8%(免税事業者は10.3)を上限とする。徴収は、原則賃金が支払われた日以降可能となる。
〔なお、厚生労働省より、消費税率が、平成27年10月1日から10%に引き上げられた場合の上記手数料についての考え方が示されているが、それによると、課税事業者については上記「10.8%」は「11.0%」と、「690円」は「710円」となるが、免税事業者については、変更はないとされている。(2)において同じ〕
なお、一の紹介業者が取扱分野に応じて届出制手数料と上限制紹介手数料を併用することは可能であるが、同一の求人者・求職者に併用することはできない。
また、届出制手数料と求人受付手数料を組み合わせて徴収することはできない〔届出制手数料の場合は、手数料表に受付事務費用(額は任意)として定めれば、これに相当するものを徴収可能〕。
・個人家庭で介護作業に従事する家政婦(夫)に係る紹介手数料については、上限制・届出制にかかわらず労災保険の第2種特別加入保険料の額(賃金の7.5/1000以下)を上乗せして徴収することが認められている(手数料管理簿において、一般の手数料と区分して記載・管理することを要する)。
(2)求職者から徴収する手数料
求職者からの手数料は、原則徴収できないとされている(職業安定法32条の3第2項)が、受付手数料として、芸能家、家政婦(夫)、配ぜん人、調理師、モデル及びマネキンの6職種に限って、求職受理1回につき690円(免税事業者は660円)を徴収できるが、同一の求職者については月3回までを限度としてしか徴収できない。
さらに求職者紹介手数料として、芸能家、モデル、経営管理者、科学技術者及び熟練労働者の職種(あと3職種については、年収700万円超に限る)に限って、6ヶ月間の賃金の10.8%(免税事業者は10.3)を上限とする手数料を、原則賃金が支払われた日以降徴収できるが(注4)、実務上は、芸能家・モデルを除き徴収する例は極めて少ない。
(3)手数料に関する事項の明示等
手数料の徴収に当たっては、紹介業者は、求人者・求職者に対し、求人・求職の申込の受理後、速やかに書面又はメール(求人者・求職者が希望した場合)で徴収することとしている手数料表を明示しなければならず、この手数料表には手数料を徴収する旨及び徴収することとしている手数料の種類・内容と額が記載されていることが必要であるとともに、手数料表は、一般の閲覧に便利な場所に掲示しておかなければならない。
また、紹介業者は、手数料管理簿を適切に作成し、事務所に備えておかなければならない(保存期間は2年)。
2 手数料徴収に当たっての留意点
手数料徴収に当たっての留意点について、関連通達等をもとに、以下検討してみたい。
(1)求人・求職受付手数料については、求人・求職の申込を受理した時以降徴収するものであることから、求人・求職の申込がないのに徴収することは、違法である。
(2)また、求人・求職の申込については、あっせん行為が行われる前に求人者・求職者から具体的な意思表示があることが必要である。この意思表示は、紹介業者が作成した業務取扱規程を求人・求職者が知りえているときは、口頭のみでも差し支えなく、直接対面するか又は電話・FAX・メール等を通じて受理するかその方法は問わないとされているが、明示されることが必ず必要であり、黙示の意思表示はありえないとされている。
(3)なお、求人申込については、同一の求人者が複数の求人(求人内容が同一か異なるかは問わない)を同時に申し込む場合は、一件の求人申込として扱い、時期をずらして(例えば、午前と午後に分けて)申込を行ったときは、それぞれ別個(二件)の求人申込として扱われる。
(4)また、求職・求人の申込があり、それが取り下げられていないときあるいはその効力が失われていないときに、紹介業者の判断で求職・求人の申込を終了したものとすることができるかに関しては、求職・求人の申込の終了時点をいつにするかは、紹介業者が業務取扱規程で個別に自由に決定することができるが、その内容について求人・求職者の同意を得ておくことが必要であるとされていることから、紹介業者が決めた求職・求人の申込の終了時点(例えば、申込受理時から3ヶ月経過後、紹介成立時等)については、あらかじめ求人者・求職者に説明しその同意を得ておく必要がある。
(5)さらに、職業紹介により雇用関係が成立した後に徴収する紹介手数料については、求職・求人の申込の後、紹介業者によるあっせん行為が必要である。この点に関し、同一の求職者を同一の求人者に繰り返し紹介する場合には、求人者・求職者に確認する事項や説明する事項のうち、変更のないものについては、「前回と同様である」旨を確認又は説明するなどある程度簡易な手続きによることが認められている(事前に求人者・求職者の同意があったとしても、求人・求職の申込の意思確認自体は省略不可)。
(6)紹介手数料を徴収することができるためには、求人・求職の状態が終了する前の有効な状態であることが必要であるとされていることから、紹介によって雇用関係が成立する時点で、求人・求職が有効でなければ紹介手数料は徴収できない(注5)。
(7)紹介手数料の支払方法については、手数料を徴収する相手方の同意があれば、一括払い又は分割払いのいずれでも差し支えないとされている。なお、分割払いの方法については、あらかじめ手数料の額が決定されていることが必要であり、その決定された金額(債権として確定した額)を分割して支払うものであることから、将来発生する手数料を分割払いと称して徴収することは、分割払いとはいえず、問題がある。
3 違法に徴収した手数料の取扱い
違法に徴収した手数料については、労働局から求人者・求職者に返還するよう指導が行われるが、この手数料は法律上の原因なくして徴収されたものとして不当利得返還請求(民法703条(注6))の対象となる。紹介業者の場合は、手数料規制を熟知しているものと推定されるので、悪意の受益者として年5分の利息を付しての返還(民法704条(注7))の対象となり、その消滅時効は10年とされている(民法167条1項(注8))ので、証拠があれば、過去10年にわたって違法に徴収した手数料を返還しなければならない。
4 おわりに
改正労働者派遣法(平成24年10月施行)の下、日雇派遣(30日以内雇用の派遣)が原則禁止され、これに伴って、この分野での短期紹介の活用が予想されるところ、現在短期紹介が行われている、伝統的な職業における職業紹介において、手数料徴収に関し一部であるとはいえ不適切な面がみられることは問題であり、この点は、今後の短期紹介の運営を考えると、上述した点を充分踏まえ、適法な手数料徴収となるよう、紹介業者としては、日頃から努力していくことが、大事であると考える。
(注1)栃木労働局において、最近、配ぜん人の日々紹介に関し、長期間にわたって受付手数料等を徴収していた事案について、是正指導が行われた(労働新聞 平21.7.27号)。
(注2)厚生労働省職業安定局需給調整事業課長名 平成21年 職儒発0903第1号、1218第1号
その趣旨は、手数料の徴収を行うに当たっては、現実の具体的な、求人・求職の受付行為、紹介行為がなければならないというもの。
(注3)免税事業者とは、課税売上高が年間1千万円以下の事業者をいう。
(注4)経営管理者等3職業については、就職から6ヶ月程度経過後(6ヶ月以下の労働契約の場合は契約期間終了時以降)に徴収することが適当とされており、その旨の指導等が労働局から行われる(業 務運営要領P59)。
(注5)紹介成立の時点で求人・求職の申込の双方あるいは一方が取消し等により、その効力が失われている場合は、原則紹介手数料の徴収ができなくなるが、この取消し等が求人者・求職者の故意によるもの(例えば、紹介手数料の支払いを免れるため、意図的に取消したとき等)であるときは、紹介手数料の徴収は可能である(民法130条。最判昭和45年10月22日の趣旨から判断)。
(注6)最判平成6年4月22日
(注7)最判平成19年2月13日、同年7月13日。
いずれも、過払い金の返還に関する判例であるが、違法徴収された手数料にも適用されると考えられる。
(注8)最判昭和55年1月24日
(参考)届出制手数料と消費税との関係
課税事業者である紹介業者が届出制手数料をとる場合は、次の点に留意することが必要である。
・平成27年10月から、消費税率が8%から10%に引き上げられることが予想され、これに伴い手数料表の改正も予想されることから、手数料表の改正を避けかつ消費税率引上げについての求人者の理解も得やすくするため、外税表示(税抜表示)をとることが適当と考えられる。
・なお、家政婦(夫)紹介のように、求人者が原則個人家庭であり事業者でない場合は、消費税は内税表示(税込表示)としなければならないので(消費税法63条)、消費税転嫁特別措置法により外税表示が許される平成29年3月31日後(平成29年4月1日以後)は、内税表示とする必要があり、この点に留意して手数料表の記載を検討しておく必要がある。なお、この例外が認められる上記期間内においても、同特別措置法においては、できるだけ速やかに、内税表示にするよう努めなければならないとされている(同特別措置法10条2項)
(なお、求人者が、事業者の場合には、内税表示は義務付けられていない)。