第18回 労働関係法令違反があった事業主からの新卒求人の取扱いについて
若者雇用促進法(青少年の雇用の促進等に関する法律)が、平成27年10月1日から施行され、若者に対し就職準備段階から就職活動時、就職後のキャリア形成までの各段階において、総合的かつ体系的な雇用対策が行われているところである。
その対策の一つとして、ハローワークにおいて、いわゆるブラック企業といわれる事業主からの新卒者等(注1)の求人申込みを受理しないとする取扱いが、平成28年3月1日から行われている。
この一環として、職業紹介事業者が、学校卒業見込者などの求人申込みの受理に関して、講ずべき措置が示されたところである(同法7条に基づく「事業主等指針」)ので、その内容を紹介し、職業紹介事業者の方々の適正な業務運営の一助としたい。
1 ハローワークにおける求人不受理(同法11条)の考え方
ハローワークにおいて、不受理の対象となる新卒者等の求人は、平成28年3月1日以降、労働基準法などの労働関係法令の規定に違反し、是正勧告を受けたり、公表されたりした事業主から申し込まれる新卒者等の求人とされている。
具体的には、
① 労働基準法及び最低賃金法関係(注2 ①及び③)では、以下の事業主からの新卒者等の求人
イ 過去1年間に2回以上同一の対象条項違反行為により、労働基準監督署から是正勧告を受け、
a 当該違反行為を是正していない 又は
b 是正してから6か月が経過していない事業主からのもの
ロ 違法な長時間労働を繰り返している企業として企業名が公表され、
a 当該違反行為を是正していない 又は
b 是正してから6か月が経過していない事業主からのもの
ハ 対象条項違反行為に係る事件について送検かつ公表され、
a 当該違反行為を是正していない、
b 送検後1年が経過していない 又は
c 是正してから6か月が経過していない事業主からのもの
② 男女雇用機会均等法及び育児・介護休業法関係(注2 ②)では、以下の事業主からの新卒者等の求人
過去1年間に2回以上同一の対象条項違反行為により、労働基準監督署から是正勧告を受け、
a 当該違反行為を是正していない 又は
b 是正してから6か月が経過していない事業主からのもの
③ 上記①又は②に該当する事業主で以下のものからの新卒者等の求人
求人不受理期間中に再度同一の対象条項違反により、
イ 労働基準監督署による是正勧告、
ロ 雇用環境・均等部(室)による助言や指導・勧告を受けており、その後、
a 当該違反行為を是正していない 又は
b 是正してから6か月が経過していない事業主からのもの
2 職業紹介事業者に求められる対応
(1)求人の不受理
職業紹介事業者も、事業主等指針(第四 5)において、上記1に述べたハローワークにおける取扱いに準じた取扱いを行うことが望ましいとされているところである。
このため、職業紹介事業者は、職業安定法32条の12①項等に基づき、取扱職種の範囲等について、例えば、次の例を参考にして、管轄の都道府県労働局に届出を行うことが望ましいとされている(注3)。
「取扱職種の範囲等:以下に該当する求人者からの学校卒業見込者等(新卒者等)であることを条件とした求人は取り扱わない。
○若者雇用促進法11条によって、公共職業安定所が求人不受理とすることができる求人者に該当する旨の自己申告があった求人者」
職業紹介事業者は、この届出を行った上で、新卒者等の求人を受け付ける際には、チェックシート(参考)を活用して、公共職業安定所が求人不受理とすることができる求人者(求人を出したい事業主)に該当するか否かを確認し、該当する場合は、その求人を受け付けないよう求められている。
(2)青少年雇用情報の提供
また、職業紹介事業者は、上記のほか、事業主等指針(第四 4)により、学校卒業見込者等(新卒者等)の求人の申込みを受理する際に、求人者に青少年雇用情報(注4)の提供を求めるとともに、全ての青少年雇用情報を提供するよう働きかけ、学校卒業見込者等(新卒者等)の職業紹介に活用することが望ましいとされていることにも留意する必要がある。なお、当該求人者は、職業紹介事業者の求めに応じ、青少年雇用情報を提供しなければならないとされている(同法14条)
なお、職業紹介事業者が、就職支援サイトを運営する場合は、事業主の青少年雇用情報について、可能な限り全ての項目が掲載されるように取り組むことも求められている。
3 おわりに
新卒一括採用の慣行が一般的である我が国においては、新卒採用時のトラブルは、新卒者等の職業生活に長期的な影響を及ぼす恐れがあることを踏まえると、職業紹介事業者の方々おかれても、上記2で述べた対応をとることが適切な職業紹介を行っていくうえで、重要なことと考えられているところである(注5)。
(注1)新卒者等(学校卒業見込者等)の範囲は、次のとおりとされている。
① 学校(中学校以上)、専修学校、各種学校、外国の教育施設に在学する者で、卒業することが見込まれるもの
② 公共職業能力開発施設や職業能力開発総合大学校の職業訓練を受ける者で、修了することが見込まれるもの
③ 新卒求人に応募できる①、②の卒業者及び修了者(少なくとも卒業後3年以内の者)
(注2)具体的な対象条項は、次のとおりとされている。
① 長時間労働や賃金不払い残業などに関する条項違反
―強制労働(労基法5条)、賃金不払い(労基法24条①項・37条①項及び④項)・最低賃金違反(最賃法4条①項)
―労働時間(労基法32条)、休日・休暇・年次有給休暇(労基法34条、35条①項、39条①項、②項、⑤項及び⑦項)
② 性別や仕事と育児などの両立に関する条項違反
―性差別、セクハラ等(均等法5条、7条、11条①項)、妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いの禁止等(均等法9条①項~③項)、妊娠中・出産後の健康管理措置(均等法12条、13条①項)、育児休業・介護休業等の申出があった場合の義務・不利益取扱いの禁止(育介法6条①項、10条、12条①項、16条の3①項、16条の6①項等)、男女同一賃金(労基法4条)、妊娠中・産後の危険有害業務の就業制限等(労基法64条の2、64条の3①項、65条、66条、67条②項)
③ その他青少年に固有の事情を背景とする課題に関する条項違反
―労働条件の明示(労基法15条1項及び3項、)、年少者に関する労働基準(労基法56条①項、61条①項、62条①項及び②項、63条)
(注3)無料職業紹介事業を行う学校等については、職業安定法33条の2①項に基づき、ハローワークに届出を行って下さいとされている。
(注4)青少年雇用情報の内容については、①青少年の募集及び採用の状況、②職業能力の開発及び向上並びに③職場への定着の促進に関する取組の実施状況(労働時間等に関する状況)に関する事項として、その提供の方法(原則メールか書面交付)を含め、厚生労働省令で詳細に定められている(若者雇用促進法施行規則5条及び6条参照)。
(注5)なお、職業紹介事業者による労働関係法令に違反した求人者からの新卒者等の求人不受理に関しては、次のような問題があり、必ずしも適切とはいえないのではないかと考える。
① 実務面の対応での問題点
―労働関係法令に違反しているか否かについて求人者の自己申告によるとしている点で、自己申告をしないあるいは拒否する求人者への対応はどうするのか、虚偽の申告に対する対応はどうするのか、また法的な義務ではないことから職業紹介事業者間での取扱いに差が出た場合の対応はどうするのか等種々問題がある。
② 法制面での問題点
―職業安定法32条の12①項等に基づく取扱職種の範囲等の規定で、本件のような職業紹介事業者一般に妥当すると考えられる事項を定めることが可能なのかという問題がある
―同規定は、ハローワークのような組織・能力を持たない、職業紹介事業者がその能力等の観点から適切な紹介ができない場合などの職業紹介事業者側に起因する問題に対応するための規定と解するのが自然であり、求人者に問題がある場合には、本来職業安定法5条の5によるべきと考えられ、ハローワークの取扱いのように法改正を行わずにこのような措置をとることは、法的な問題を生じる恐れがある(若者雇用促進法7条を根拠とすることは適切でない)。
なお、旧職業安定法33条の3①項おける「職業紹介事業を行うに当り取り扱うべき職種の範囲その他取扱の範囲」の解釈として、「取扱の範囲」については「青少年、年少者のような年齢的範囲、生徒又は要保護者、釈放者のような分類的範囲、都道府県、市町村のような地域的範囲等をいう」とされている(労働省職業安定局編著「改訂版職業安定法 P398」 昭和45年8月25日発行 なお、同書では同項の解釈として、無料の職業紹介事業者が自らその取扱の範囲を制限して許可の申請を行うことを認めたものとされているので、現行法32条の12①項等と同趣旨の規定と解される。)。
また、職業紹介事業者の場合は、ハローワークの取扱いと異なり、法的な義務ではないことから、本件のような求人者について職業紹介について差別的な取扱いを行うことは、労働関係の法令違反が生じる蓋然性が高いと認められるような特別の事情がある場合を除き、その解釈にもよるが職業安定法3条(職業紹介事業者……が均等待遇……に関して適切に対処するための指針(平成11年労働省告示141号)第2 1参照)の均等待遇の面からの問題も生じる可能性がある(この観点から、上記1①~③の b(①ハについてはcも)については、問題がある)
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