第23回 職業紹介事業に関する制度改正について
平成29年3月31日、職業紹介事業の制度改正を含む職業安定法の一部を改正する法律が成立し、同日公布され、また関係の省令・告示等の改正も行われたので、昨年12月審議会から出された建議も踏まえ、職業紹介事業者の方々の今後の業務運営の参考として、今回の職業紹介事業の制度改正の概要を紹介することとする。
1 制度改正の概要
制度改正の概要は、次のとおりである。
(1)職業紹介事業者に係る欠格事由の追加(平成29年4月1日施行)
・労働・社会保険関係法令違反で罰金刑に処せられ5年を経過しない者
・職業紹介事業の許可の取消し等の処分に係る聴聞があった日から当該処分をする日等までに職業紹介事業の廃止の届出をした者で当該日から5年を経過しない者
・職業紹介事業の許可を取り消された法人の役員であった者で当該取消し等の日から5年を経過しないもの
・暴力団員又は暴力団員でなくなった日から5年を経過しない者
等を職業紹介事業者に係る欠格事由として追加する。
なお、4月1日前に許可を受けて職業紹介事業を行っている者についての許可の取り消し・事業停止命令に関しては同日前に生じた事由については、なお従来どおりとされる。
(2)公共職業安定所による職業紹介事業者の業務情報の提供等(平成29年4月1日施行)
・公共職業安定所と職業紹介事業者は、求職者が希望する地域においてその能力に適合する職業に就くことができるよう、職業紹介に関し、相互に協力するよう努めることとされた。
・公共職業安定所は、求人者又は求職者に対し、職業紹介事業者が公共職業安定所による提供を求める(7)により職業紹介事業者が情報提供する事項、その紹介により就職した者のうち移転費の支給を受けたものの数*その他職業紹介事業の業務に係る情報を提供することとされた。
*職業紹介事業者の紹介による就職者も移転費の支給対象となる(平成30年1月1日施行)。
(3)許可申請時の添付書類の改正等
ア 許可申請時の添付書類の改正(平成29年4月1日施行)
・代表者、役員及び職業紹介責任者の「住民票写し」は本籍地を記載したものとすること
・職業紹介責任者に職業紹介事業者に係る欠格事由と同様の欠格事由を設けること
・有料職業紹介事業の更新に際して、職業紹介責任者に係る職業紹介責任者講習の受講票の写しを添付するものとすること
・特別の法人が無料の職業紹介事業を行う際の届出について、役員の住民票の写し及び履歴書の添付を不要とすること
イ 許可基準の改正(平成29年5月30日施行)
(ア)許可基準のうち事業所に関する要件について、現行の面積要件(概ね20m2)に代えて、求人者及び求職者のプライバシーを保護するための次の措置を講ずることとすること(なお、当分の間、現行の面積要件も可とする)
・職業紹介の適正な実施に必要な構造・設備(個室の設置、パーティション等での区分)を有すること
・他の求人者又は求職者と同室にならずに対面紹介を行うことができるような措置(予約制、貸部屋の確保等)を講ずること(他の用途への使用禁止を許可条件とする)
なお、事業所外での事業実施について、職業紹介責任者が当該事業所外にいる場合等で、プライバシー保護や個人情報保護の措置が実施される場合は、可能とすること
(イ)職業紹介事業と労働者派遣事業を兼業する場合の個人情報等の管理について、現行制度(職業紹介に関する情報と労働者派遣に関する情報の相互利用の禁止)を維持しつつ、別個の管理を不要とすること
ウ 許可の有効期間の更新の申請期限(平成29年10月1日施行)
当該許可の有効期間が満了する日の3か月前までに提出しなければならないこととすること
(4)職業紹介責任者の職務の追加等(平成30年1月1日施行)
・職業紹介責任者の職務に、他の従業員に対する職業紹介の適正な遂行に必要な教育(労働関係法令等)を追加する。
・「厚労省人事労務マガジン(メールマガジン)」に登録を義務づける。
・職業紹介責任者は、過去5年以内に職業紹介責任者講習を修了((5)の理解度試験の合格が要件)している者のうちから選任しなければならないこととする。
(5)職業紹介責任者講習の充実・理解度試験の実施(平成30年1月1日施行)
・新規受講者のみ必修となっている科目を受講者全員に必修とする。
・講習内容に、労働関係法令等の改正動向、他の従業員に対する教育方法等を追加する。
・講習の理解度試験を実施し、その合格を講習修了の要件とする。
・職業紹介責任者講習は、職業紹介事業の業務の適正な遂行のために必要な知識を習得させるための講習とし、次の基準を充たすものとする。
a 施設、設備、講習の実施方法その他の講習に関する事項が講習の適正かつ確実な実施に適合したものであること
b 講習機関の経理的及び技術的な基礎が講習の適正かつ確実な実施に足るものであること
(6)取扱職種の範囲等の明示事項の追加(平成30年1月1日施行)
明示事項として、次の事項を追加する。
イ 返戻金制度(その紹介で就職した労働者が早期に離職したことその他これに準ずる事由があった場合に手数料の全部又は一部を求人者に返戻する制度その他これに準ずる制度)に関する事項(返戻金制度を設けることが望ましいとされている)
ロ 返戻金制度に関する事項について、事業所内の一般の閲覧に便利な場所への書面での掲示(求人者及び求職者への明示)
ハ 求職者に明示する手数料に関する事項として、求職者から徴収する手数料、求人者から徴収する手数料に関する事項の明示
(7)職業紹介事業者によるその業務に関する情報提供の義務化(平成30年1月1日施行)
職業紹介事業者は、次の業務に係る実績を厚生労働省の「人材サービス総合サイト」で情報提供しなければならない(また、必要に応じ事業者のホームページ等による提供)。
・就職者の数及びそのうちの無期雇用就職者の数、無期雇用就職者のうち6か月以内に離職した者(解雇離職者を除く)の数等(いずれも原則として前年度及び前々年度の総数)
なお、職業紹介事業者は、無期雇用就職者の数の確認のため、求人者に必要な調査を行うこととし、求人者はこの調査に可能な限り協力することが求められること
・手数料に関する事項
・返戻金に関する事項
なお、求人者、求職者等が職業紹介事業者を選択する際に参考となる資料(職種ごと、地域ごと等の就職の状況、離職理由等)も提供することが望ましいこと
(8)職業紹介事業者間の業務提携等
ア 現行の取扱いを前提に、職業紹介事業者が他の複数の職業紹介事業者との間の業務提携が可能であることを明確化したうえで、次のとおりの取扱いとすること。
・従事すべき業務の内容等の明示義務は、原則として、求職者から直接求職の申込みを受けた職業紹介事業者が履行すべきものとし、また、求人求職管理簿への記載及び職業紹介事業報告は業務提携を行う職業紹介事業者間で取り決めた一の事業者が行うこと
・複数の職業紹介事業者を提携先とする場合、求人者又は求職者が提携先ごとに同意又は不同意の意思を示すことができるようにし、一度にまとめて求人者又は求職者の同意を求めること(当面提携先の数は10とすること)を可能とすること
・求人者又は求職者の同意を求める際に提示する提携先に関する情報として、(7)の業務に係る実績、また必要に応じ職業紹介事業の実施地域、就職件数の多い職種、年齢、賃金及び雇用形態等を提示すること
・個人情報の適正な管理(正確かつ最新のものに保つための措置、紛失・破壊及び改ざんを防止するための措置等)について、より一層的確に対応すること
・職業紹介事業者以外の者から職業紹介事業者に対し、求人申込みの意向を持つ求人者がいる旨の情報提供を行うことは問題ないことを明確化する。
(9)苦情処理、就職した労働者の早期離職への対応(平成30年1月1日施行)
・求職者からの苦情のみならず、求人者からの苦情及び職業紹介後の苦情も対象とした迅速・適切な処理に係る体制の整備(相談窓口の明確化等)及び改善向上に努めること
・職業紹介事業者は、その紹介で就職した者(期間の定めのない労働契約者に限る)について、2年間、転職の勧奨を行ってはならないこと
(10)職業紹介事業者及び求人者による従事すべき業務の内容等の明示(平成30年1月1日施行)
ア 職業紹介事業者及び求人者は、求職者等に対し、職業安定法5条の3第1項により明示すべき従事すべき業務の内容等(従事すべき業務の内容及び賃金、労働時間その他の労働条件をいう)については、可能な限り速やかに明示しなければならないこと
―原則として、求職者等と最初に接触する時点までに従事すべき業務の内容等を明示すること
従事すべき業務の内容等の一部を別途明示する場合は、その旨を併せて明示すること
イ 職業紹介事業者及び求人者が、職業安定法5条の3第1項又は第2項により明示が必要な従事すべき業務の内容等に、次の事項を追加すること
・裁量労働制、事業場外みなし労働の場合には、その旨の明示
・固定残業代をとる場合は、その計算方法(固定残業時間及び金額を明示)、固定残業代を除外した基本給の額、固定残業時間を超える時間についての追加割増金の支払い等の明示
・期間のある労働契約を締結する場合は、それが試用期間の性質を有するものであっても、試用期間終了後の従事すべき業務の内容等ではなく、試用期間に係る従事すべき業務の内容等を明示すること
ウ 求人者は、従事すべき業務の内容等の変更等に係る明示については、次のとおりとすること(平成30年1月1日以後に申し込まれた求人から適用される)。
なお、学校卒業見込者等については、従事すべき業務の内容等の変更等は不適切である等一定の配慮が必要であること
・明示した従事すべき業務の内容等を変更する場合は、変更する従事すべき業務の内容等の明示
・当初の明示において一定の範囲をもって明示した従事すべき業務の内容等を特定して提示しようとするときは、特定する従事すべき業務の内容等の明示
・明示した従事すべき業務の内容等を削除する場合は、削除する従事すべき業務の内容等の明示
・従事すべき業務の内容等を追加する場合は、追加する従事すべき業務の内容等の明示
なお、上記の明示は、求職者が変更内容等を十分理解できるよう適切な明示方法とること ―変更内容等との新旧対照表によることが望ましいが、労働条件通知書の変更内容等に下線を引くなどの方法も可能であること
また、当初明示の従事すべき業務の内容等はそのまま労働契約の内容となることが期待されていること、また安易に変更、追加等をしないこと
エ 職業紹介事業者は、ウによる従事すべき業務の内容等の変更等があった場合には、求人票等の内容を検証し、修正等を行うべきであること
オ 書面で明示すべき従事すべき業務の内容等として、次の事項を追加すること
・試用期間に関する事項
・労働者を雇用しようとする者の氏名又は名称に関する事項
・労働者を派遣労働者として雇用する者にあっては、派遣労働者として雇用する旨
カ イからウまでの明示は、試用期間中と試用期間満了後の従事すべき業務の内容等が異なるときはそれぞれの従事すべき業務の内容等を明示すること
キ 求人者は、求職者に明示された従事すべき業務の内容等に関する記録を当該明示に係る職業紹介が終了する日(職業紹介が終了する日以降に労働契約を締結する場合は、労働契約締結日)まで保存しなければならないこと
(11)求人者への指導(平成30年1月1日施行)
求人者を、職業安定法基づく指針、指導及び助言、申告、報告徴収及び検査の対象並びに(15)の場合に勧告及び公表の対象とすること
(12)適正な宣伝広告(平成30年1月1日施行)
・職業安定機関その他公的機関と関係を有しない職業紹介事業者は、これと誤認させる名称を用いてはならないこと
・不当に求人者又は求職者を誘引し、合理的な職業選択を阻害するおそれがある不当な表示をしてはならないこと
・求職の申込みの勧奨については、職業紹介事業者が求職者に金銭等を提供して行うことは好ましくないこと
(13)求人受理の拒否事由の拡大(平成29年3月31日から起算して3年以内の政令で定める日から施行)
ア 次の事由を追加
① 求人者が、労働関係法令違反で処分・公表等の措置を受けた場合
② 求人者が、暴力団員、役員に暴力団員がいる法人、暴力団員がその事業活動を支配する者等に該当する場合
③ 求人者が、正当な理由なくイの求めに応じない場合
イ 求人者は、職業紹介事業者からのア①・②に該当するか確認するため求められた報告・資料の提出に、正当な理由がない限り応じなければならないこととする。
(14)求人者を守秘義務・個人情報保護義務の規制対象化(平成30年1月1日施行)
求人者についても、職業紹介事業者と同様、守秘義務(30万円以下の罰金)・個人情報保護義務の規制対象とする。
(15)指導監督(平成30年1月1日施行)
ア 職業紹介事業者について、法令違反があった場合には、厳正に行政処分等を行うこと
イ 求人者について、次の場合に、必要な措置を勧告できることとし、従わなかったときはその旨公表できることとすること
・従事すべき業務の内容等の明示義務違反
・(10)イに係る明示義務違反
・(13)イに係る職業紹介事業者の求めに応ずる義務違反
・上記3事項の違反に対し指導又は助言を受けたにもかかわらず、なお違反のおそれがあるとき
(16)罰則(平成30年1月1日施行)
虚偽の条件を呈示して、職業紹介事業者へ求人の申込みを行った者を新たに罰則(6月以下の懲役又は30万円以下の罰金)の対象とする。
2 今後の対応
上記のように、職業紹介事業及び職業紹介事業者、求人者に対し、広範な規制あるいはその緩和がなされることが予定されており、特に職業紹介事業者としては、職業紹介責任者講習の改正、求人受理の拒否範囲の拡大、従事すべき業務の内容等の明示義務に関する改正については、今後の業務を適正に進めていくうえで、特に留意する必要があると考えられるので、今後、その具体的な対応に関し厚生労働省から示される「業務運営要領」の改正等に注視していくことが大切であると思われる。
(参考)厚生労働省作成の改正職業安定法の概要
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11600000-Shokugyouanteikyoku/0000162855.pdf のうちの改正職業安定法関係を参照のこと