第24回 働き方改革の概要について
現在政府で検討が進められている働き方改革について、紹介事業者の方々の今後の業務運営の参考としていただけるよう、その概要を解説することとしたい。
1 働き方改革の概要
本年1月(平成29年)20日に行われた施政方針演説で、安倍総理は働き方改革について「最大のチャレンジは、一人ひとりの事情に応じた、多様で柔軟な働き方を可能とする、労働制度の大胆な改革」と述べており、その具体化の検討が内閣に設けられた「働き方改革実現会義」で行われ、本年3月「実行計画」(参考1)の策定が行われたところである。
今後この「実行計画」に基づき、各般の施策の実現が図られることになっている。
その中で、中核的な改革として位置づけられているのが、「同一労働同一賃金の実現」と「罰則付きの時間外労働の上限規制の導入」であるので、その概要を中心に紹介することとする。
2 同一労働同一賃金の実現
(1)働き方改革実現会義での議論
イ 働き方改革実現会義では、その検討結果として、昨年(平成28年)12月20日に「同一労働同一賃金ガイドライン(案)」(参考2)を公表したところである。
その要旨は、次のとおりである。
本ガイドライン(案)は、正規か非正規かという雇用形態にかかわらない均等・均衡待遇を確保し、同一労働同一賃金の実現に向けて策定するものであり、正規労働者(無期雇用フルタイム労働者)と非正規労働者(有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者)の間の不合理な待遇差の解消を目的とするとし、まずは、各企業において、処遇体系全体を労使の話し合いによって確認し共有することが肝要であるとしたうえで、いかなる待遇差が不合理なものであり、いかなる待遇差は不合理なものでないかについて、基本給、賞与、役職手当、精皆勤手当、時間外労働手当、通勤手当・出張旅費、福利厚生施設(食堂、休憩室、更衣室)、病気休職、教育訓練に関し、具体例を挙げて示している。
このガイドライン(案)は、上記「実行計画」に盛り込まれており、今後、この「実行計画」をもとに、作業が進められ、本ガイドライン(案)については、関係者の意見や法改正についての国会審議を踏まえ、本年秋頃に最終的に確定するとされている。
ロ また、「実行計画」では、我が国から「非正規」という言葉を一掃することを目指して、同一労働同一賃金の実効性を確保する法制度を整備するとして、具体的には、労働契約法、パート労働法、労働者派遣法の改正を行うこととし、その改正事項の概要は、次のとおりである。
① 労働者が司法判断を求める際の根拠となる規定の整備
・有期雇用労働者について、均等待遇を求める法改正を行う
・派遣労働者について、派遣先労働者との均等・均衡待遇を求める法改正を行う
・パートタイム労働者も含めて、均衡待遇の規定について、明確化を図る
② 労働者に対する待遇に関する説明の義務化
・有期雇用労働者についても、雇い入れ時に、労働者に適用される待遇の内容等の本人に対する説明義務を、事業者に課す
・雇い入れ後に、パートタイム労働者・有期雇用労働者・派遣労働者の求めに応じ、比較対象となる労働者との待遇差の理由等についての説明義務を、事業者に課す
③ 行政による裁判外紛争解決手続きの整備
・不合理な待遇差の是正を求める労働者にとって、裁判に訴えることは経済的負担を伴うため、裁判外紛争解決手続き(行政ADR)を整備し、均等・均衡待遇を求める当事者が身近に、無料で利用できるようにする
④ 派遣労働者に関する法整備
・派遣元事業者が、派遣労働者の派遣先労働者との均等・均衡待遇の確保義務を履行できるよう、派遣先事業者に対し、派遣先労働者の賃金等の待遇に関する情報を派遣元事業者に提供する義務や派遣料金への配慮などの規定を整備する
・派遣労働者と派遣元事業者が一定の要件を満たす労使協定を締結しそれが実際に履行されている場合には、派遣先労働者との均等・均衡待遇を求めないこととする
(2)厚生労働省の「同一労働同一賃金部会」での議論
働き方改革実現会義での議論を踏まえ、本年4月から、厚生労働省の「同一労働同一賃金部会」での議論が行われ、6月に「同一労働同一賃金に関する法整備について」の報告書(参考3)の取りまとめが行われたところである。
その内容は、短時間労働者・有期契約労働者関係と派遣労働者関係ごとに分けて、それぞれ
・労働者が司法判断を求める際の根拠となる規定の整備
・労働者に対する待遇に関する説明の義務化
・行政による裁判外紛争解決手続きの整備等
に関するものであり、上記「実行計画」の内容を踏まえたものとなっている。
3 罰則付きの時間外労働の上限規制の導入
(1)働き方改革実現会義での議論
働き方改革実現会義では、その検討結果として、本年3月17日に「時間外労働の上限規制の導入」を決定し、その内容は、上記「実行計画」に盛り込まれたところである。
その概要は、次のとおりである。
(原則)
週40時間を超えて労働可能となる時間外労働時間の限度を、原則として、月45時間、かつ、年360時間とし、違反には次の特例を除いて罰則を課す。
(特例)
臨時的な特別の事情がある場合として労使が合意して労使協定を結ぶ場合においても、上回ることができない時間外労働時間を年720時間(月平均60時間)とする。
年720時間以内において、一時的に事務量が増加する場合について、最低限、上回ることのできない上限を設ける。
この上限については、
① 2か月、3か月、4か月、5か月、6か月の平均で、いずれにおいても、休日労働を含んで80時間以内を満たさなければならない
② 単月では、休日労働を含んで100時間未満を満たさなければならない
③ 時間外労働の限度の原則は、月45時間、かつ、年360時間であることに鑑み、これを上回る特例の適用は、年半分を上回らないよう、年6回を上限とする
というものである。
なお、上記「実行計画」には、勤務間インターバル制度導入に向けた環境整備についても盛り込まれている。
(2)厚生労働省の「労働条件分科会」での議論
働き方改革実現会義での議論を踏まえ、本年4月から、厚生労働省の「労働条件分科会」での議論が行われ、6月に「時間外労働の上限規制等について」の報告書(参考4)の取りまとめが行われたところである。
その内容は、
・時間外労働の上限規制
・勤務間インターバル
・長時間労働に対する健康確保措置
に関するものであり、上記「実行計画」の内容を踏まえたものとなっている。
4 その他「実行計画」に盛り込まれた関連事項
「実行計画」には、上記の外、企業への賃上げの働きかけ、テレワークのガイドラインの刷新、副業・兼業の推進に向けたガイドラインの策定、子育て・介護と仕事の両立支援策の充実、障害者等の就労支援、外国人材受入れの環境整備、パートタイム女性労働者が就業調整を意識しない環境整備、高齢者の就業促進等多岐にわたる改革が盛り込まれている。
5 今後のスケジュール
(1)今後、厚生労働省において、上記関係審議会の報告書を踏まえ、① 同一労働同一賃金関係については労働契約法、パート労働法、労働者派遣法の改正案、② 時間外労働の上限規制等については労動基準法、労働時間等設定改善法の改正案に関し、それぞれ審議・検討が行われ、秋にも予定される臨時国会に提出されるものと見込まれている。
なお、上記法改正に関連して、現在、国会で継続審査となっている高度プロフェッショナル制度(年収1075万円以上の労働者を対象―いわゆる残業代ゼロ法案)等を盛り込んだ労働基準法改正案(参考5)については、政府内では、上記法改正と一括して対応する方向での検討が行われている。
おって、厚生労働省では、更に働き方改革を政府をあげて推進するため、改革の理念を盛り込んだ基本法を作るべく検討が進められているところである。
(2)紹介事業者の方々も、来年1月に施行される改正職業安定法で労働条件に関する明示義務が強化されたこともあり、その動向に留意し、適正な業務運営に努めることが大切であると考える。
(参考1)「実行計画」の概要
www.kantei.go.jp/jp/headline/pdf/20170328/05.pdf
(参考2)「同一労働同一賃金ガイドライン(案)」
www.kantei.go.jp/jp/singi/hatarakikata/dai5/siryou3.pdf
(参考3)同一労働同一賃金に関する法整備について」の報告書
(参考4)「時間外労働の上限規制等について」の報告書
(参考5)労働基準法改正案
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/soumu/houritu/dl/189-41.pdf