第14回 最近の法改正を踏まえた適正な職業紹介業務の遂行について
最近、適法な職業紹介を行う上で留意すべき法令改正が頻繁に行われているので、この点について説明し、適正な職業紹介が行われる一助にしたい。
1 労働条件明示に関する改正
(1)労働基準法施行規則の改正等
平成25年4月1日より、労働基準法施行規則5条1項が改正され、労働契約の締結の際、書面で明示すべき事項として、「期間の定めがある労働契約を更新する場合の基準に関する事項」が追加されていることから、紹介業者としては、求職者に期間の定めがある労働契約に係る労働条件を明示するに際には、この点に関しても、明示することが求められているといえる(職業安定法5条3項及び同規則4条の2においては、明示すべき事項として規定されていないが)。
また、この点に関しては、平成27年4月1日より、専門的知識等を有する有期雇用労働者等に関する特別措置法の施行に伴い、同法による特例の対象者の場合、「無期転換申込権が発生しない期間」の書面明示が求められていることにも注意する必要がある(特定有期雇用労働者に係る労働基準法施行規則5条の特例を定める省令)。なお、同省令により、特例の対象者(高度専門)の場合には、特定有期業務についても、書面明示が求められている(参考「労働条件通知書」参照)。
(2)短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律(パート労働法)施行規則の改正
平成27年4月1日より、パート労働法の改正に合わせ、パート労働法施行規則2条が改正され、労働基準法施行規則5条1項により書面明示すべき事項に加えて文書等による明示が求められる事項に、昇給・退職手当・賞与の有無のほか新たに「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する事項に係る相談窓口」が追加されたことから、パート労働者の紹介に当たっては、この点についても、求人者からその状況を把握し、パート求職者に明示することが適切と考えられる。
2 性差別求人に関する改正
紹介業者が、求人を受理するに当たってチェックすべき性差別に係る事項について、次のように、改正が行われているところである。
・男女雇用機会均等法施行規則の改正
平成26年7月1日より、男女雇用機会均等法施行規則2条が改正され、間接差別となり得る措置の範囲の見直しにより、間接差別となるおそれのある措置として省令に定める3つの措置のうち、コース別雇用管理における「総合職」の募集・採用に係る転勤要件について、「総合職の限定」が削除され、すべての労働者の募集・採用に当たって、合理的な理由なく、転勤要件を設けることは、間接差別に該当するとされたので、紹介業者としては、求人票の受理に当たり、転勤要件のある求人については、その合理性の有無をチェックしたうえで、受理するか否かを判断しなければならず、合理性のないと認められる求人は、違法求人として、受理してはならない点に注意する必要がある。
3 その他関連事項の改正
以上のほか、紹介業者が留意することが適切と考えられる法改正として、次のものが考えられる。
(1)行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律(マイナンバー法)の制定
マイナンバー法の施行により、本年10月から、住民票を有するすべての個人に、1人1番号のマイナンバーが、住所地の市町村長により指定され、その活用が、平成28年1月から始まることとなっている。
このマイナンバーを付与された「個人番号カード」は、主として社会保障・税に係る手続きに利用されることになっているが、本人確認のための身分証明書としての使用も想定されており、紹介業者が、求職者本人かどうかを確認する際の利用も考えられるところである。ただ、紹介業者としては、この「個人番号カード」の利用に当たっては、カード裏面に記載されているマイナンバーを書き写したり、コピーを取ったりすることは禁止されている点に、留意する必要がある。
(2)個人情報保護法改正の動き
イ 個人情報保護法の改正案が、現在国会で審議されており、その成立が見込まれるところである(衆議院では政府原案どおり可決され、参議院で審議中(5月28日現在))。
今回の改正は、個人情報の保護を図りつつ、パーソナルデータの利活用を促進することによる、新産業・新サービスの創出と国民の安全・安心の向上の実現を図ることを目的に行われるもので
ある。
このため、個人情報の定義の明確化が図られることになっており、身体的特徴を記憶したカード情報(例、身体認証付キャッシュカード等)やサービス・商品購入用のカード情報(例、個人番号カード・クレジットカード等)が個人情報に含まれることを明確にするとともに、本人の人種、信条、社会的身分、病歴、犯罪の経歴、犯罪により害を被った事実等本人に対する不当な差別、偏見その他の不利益が生じないようにその取扱いに特に配慮を要する記述等が含まれる個人情報を「要配慮個人情報」(いわゆる機微情報)として、新たに厳格な保護・管理の対象として定めている。要配慮個人情報は、例えば、本人の同意を得ないで取得することが、原則禁止される。
また、個人情報取扱業者の範囲の限定(取り扱う個人情報が5000超)をなくし、すべての事業者を法の規制対象とするほか、個人情報保護委員会の新設等の改正が行われるこことされ、改正法公布後、2年以内の政令で定める日から施行するとされている。
ロ 今回の改正と紹介業者との関係であるが、紹介業者が業務を行う上で、特に問題となる、いわゆる機微情報の取扱いが、「要配慮個人情報」として厳格な取扱いが求められることとなっており、紹介業者としては、従来以上にその取扱いを厳格に行うことが必要となるとともに、その取扱個人情報量にかかわりなく、個人情報保護法はすべての紹介業者に適用されることとなるので、あらかじめそのための準備を進めておくことが望まれる。
ハ なお、今回の改正を踏まえた紹介業者の具体的な業務取扱いについては、改正法施行までに、厚生労働省から示されると考えられるので、紹介業者としても、行政の動向に注意を払う必要があると考える。
(3)消費税法の改正
消費税法の改正により、消費税率の8%から10%への引き上げ時期が、平成27年10月1日から平成29年4月1日に変更されたことから、紹介業者の手数料についても、その変更時期が、同様に平成29年4月1日に変更されている点に留意する必要があるが、具体的な手数料の変更については、今後、消費税率の変更時に合わせて、厚生労働省から、その考え方が示されることになる(注:8%への引き上げ時に示された、10%時の手数料についての厚生労働省の考え方は、第9回「手数料について」を参照。)ので、注意を要する(なお、外税表示が許容される期間も、平成30年9月30日まで延長されている)。
[画像をクリックすると拡大して表示されます] (厚生労働省ホームページより)
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