職業紹介をめぐる法的な問題等について

第21回 職業紹介事業に関する制度改正についての建議

平成28年12月7日、厚生労働省の労働政策審議会から、職業紹介事業に関する制度改正についての建議が提出され、今後同建議に基づき、職業紹介事業の制度改正がなされることになるので、その概要を紹介し、職業紹介事業者の方々の今後の業務運営の参考としたい。

1 建議の概要

建議の概要は、次のとおりである。

(1)職業紹介事業の許可の欠格事由の追加

労働・社会保険関係法令違反で罰金刑に処せられた者、職業紹介事業の許可を取り消された者の役員であった者、職業紹介事業の許可取消しに係る処分逃れをした者及び暴力団員等を追加する。

(2)職業紹介責任者の職務の追加等

・その職務に他の従業員に対する職業紹介の適正な遂行に必要な教育(労働関係法令等)を追加する。

・「厚労省人事労務マガジン(メールマガジン)」に登録を義務づける。

・職業紹介責任者の要件を法令等で規定する。

(3)職業紹介責任者講習の充実・理解度試験の実施

・新規受講者のみ必修となっている科目を受講者全員に必修とする。

・講習内容に、労働関係法令等の改正動向、他の従業員に対する教育方法等を追加する。

・講習の理解度試験を実施しその合格を講習終了の要件とする。

・職業紹介責任者講習の基準を法令等で規定する。

(4)求人受理の拒否事由の拡大

ア 次の事由を追加

① 求人者が、労働関係法令違反で処分・公表等の措置を受けた場合

② 求人者が、暴力団員、役員に暴力団員がいる法人、暴力団員がその事業活動を支配する者等に該当する場合

③ 求人者が、正当な理由なくイの求めに応じない場合

イ 求人者は、職業紹介事業者からのア①・②に該当するか確認するため求められた報告・資料の提出に、正当な理由がない限り応じなければならないこととする。

ウ 取扱職種の範囲等の限定事項の例示として「賃金」を追加

(5)職業紹介事業者によるその業務に関する情報提供の義務化

職業紹介事業者は、業務に係る実績(職業紹介により就職した者の数及び就職した者(期間の定めのない労働契約者に限る)のうち6か月以内に離職した者(解雇離職者を除く)の数等)及び手数料に関する事項を、インターネットで情報提供しなければならないこととする。あわせて6か月以内に離職した者については、その旨求人求職管理簿に記載を義務付ける。

なお、求人者、求職者等が職業紹介事業者を選択する際に参考となる資料(職種ごと、地域ごと等の就職の状況、離職理由等)も提供することが望ましいこと

(6)職業紹介事業者間の業務提携等

ア 現行の取扱いを前提に、職業紹介事業者が他の複数の職業紹介事業者との間の業務提携が可能であることを明確化したうえで、次のとおりの取扱いとすること

・労働条件等の明示義務は、原則として、求職者から直接求職の申込みを受けた職業紹介事業者が履行すべきものとし、また、求人求職管理簿への記載及び職業紹介事業報告は業務提携を行う職業紹介事業者間で取り決めた一の事業者が行うこと

・複数の職業紹介事業者を提携先とする場合、求人者又は求職者が提携先ごとに同意又は不同意の意思を示すことができるようにし、一度にまとめて求人者又は求職者の同意を求めること(当面提携先の数は10とすること)を可能とすること

・求人者又は求職者の同意を求める際に提示する提携先に関する情報として、(5)の業務に係る実績、また必要に応じ職業紹介事業の実施地域、就職件数の多い職種、年齢、賃金及び雇用形態等を提示すること

・個人情報の適正な管理(正確かつ最新のものに保つための措置、紛失・破壊及び改ざんを防止するための措置等)について、より一層的確に対応すること

・職業紹介事業者以外の者から職業紹介事業者に対し、求人申込みの意向を持つ求人者がいる旨の情報提供を行うことは問題ないことを明確化する

(7)就職した労働者の早期離職等への対応

職業安定法基づく指針に次の内容を規定すること

・職業紹介事業者は、その紹介で就職した者(期間の定めのない労働契約者に限る)について、2年間、転職の勧奨を行ってはならないこと

・職業紹介事業者は、その紹介で就職した労働者が早期に自ら退職した場合、その他特段の事情がある場合に手数料の一部を求人者に返戻する制度、在職期間に応じて分割して手数料を徴収する制度等(返戻金制度等)を設けることが望ましいこと

・職業紹介事業者が求人者に明示する手数料に関する事項に返戻金制度が含まれること及び求職者に明示する手数料に関する事項に求人者から徴収する手数料が含まれることを明確化すること

・職業紹介後の苦情処理に係る体制の整備(相談窓口の明確化等)を行うこと

(8)求人者への指導

求人者を、職業安定法基づく指針、指導及び助言、申告、報告徴収及び検査、(11)の場合に勧告及び公表の対象とすること

(9)その他

ア 許可基準のうち事業所に関する要件について、現行の面積要件(概ね20m2)に代えて、求人者及び求職者のプライバシーを保護するための次の措置を講ずることとすること(なお、当分の間、現行の面積要件も可とする)

・職業紹介の適正な実施に必要な構造・設備(個室の設置、パーティション等での区分)を有すること

・他の求人者又は求職者と同室にならずに対面紹介を行うことができるような措置(予約制、貸部屋の確保等)を講ずること(他の用途への使用禁止を許可条件とする)

イ 事業所外での事業実施について、職業紹介責任者が当該事業所外にいる場合等で、プライバシー保護や個人情報保護の措置が実施される場合は、可能とすること

ウ 職業紹介事業と労働者派遣事業を兼業する場合の個人情報等の管理について、現行制度を維持しつつ、別個の管理を不要とすること

エ 特別の法人が無料の職業紹介事業を行う際の届出について、役員の住民票の写し及び履歴書の添付を不要とすること

(10)求人者による労働条件等の明示

ア 求人者は、職業安定法5条の3第3項の書面等による明示が必要な労働条件等が次の場合に該当するときは、その旨を求職者が認識できるよう書面等で明示しなければならないとすること

・職業安定法5条の3第1項による当初の明示において明示していなかった労働条件等を提示しようとするとき

・当初の明示において一定の範囲をもって明示した労働条件等を特定して提示しようとするとき

・当初の明示において明示した労働条件等と異なる内容の労働条件等を提示しようとするとき

イ 労働条件等の明示義務に係る明示事項に、次の措置を講ずること

・固定残業代に係る計算方法、固定残業代を除外した基本給の額等の明示

・期間の定めのある労働契約を締結しようとする場合は、当該契約が試用期間の性質を有するものであっても、当該期間の定めのある労働契約に係る労働条件を明示

・試用期間の有無、試用期間があるときはその期間、試用期間中と試用期間満了後の労働条件が異なるときはそれぞれの労働条件を明示

・求人者の氏名又は名称の明示

・派遣労働者の求人の場合は、その旨の明示

(11)指導監督

ア 職業紹介事業者について、法令違反があった場合には、厳正に行政処分等を行うこと

イ 求人者について、次の場合に、必要な措置を勧告できることとし、従わなかったときはその旨公表できることとすること

・労働条件等の明示義務違反

・(10)アに係る明示義務違反

・(4)イに係る職業紹介事業者の求めに応ずる義務違反

・上記3事項に違反に対し指導又は助言を受けたにもかかわらず、なお違反のおそれがあるとき

(12)罰則

虚偽の条件を呈示して、職業紹介事業者の求人の申込みを行った者を新たに罰則の対象とする。

2 今後の対応

上記のように、職業紹介事業及び職業紹介事業者、求人者に対し、広範な規制あるいはその緩和がなされることが予定されており、特に職業紹介事業者としては、職業紹介責任者講習の改正、求人受理の拒否範囲の拡大、労働条件等の明示義務に関する改正については、今後の業務を適正に進めていくうえで、特に留意する必要があると考えられるので、今後の厚労省の検討状況に注視していくことが大切であると思われる。

職業紹介をめぐる
法的な問題等について

■第1回
職業紹介の法的性格とその内容
について

■第2回
職業紹介、労働者派遣及び労働
者供給の相互関係

■第3回
職業紹介と消費者契約法等との
関係

■第4回
暴力団関係者からの求人・求職
申込みへの対応について

■第5回
職業紹介における個人情報保護
のあり方について

■第6回
紹介業者の善管注意義務について

■第7回
職業紹介における労働条件等の明示について

■第8回
紹介所と労働組合のかかわり

■第9回
手数料について

■第10回
ハローワークと求人者・求職者の職業紹介を巡る法的関係について

■第11回
事業譲渡、合併、会社分割等における紹介事業の許可等の取扱い

■第12回
固定残業代の記載がある求人票への対応について

■第13回
民法改正案の職業紹介業務への影響について

■第14回
最近の法改正を踏まえた適正な職業紹介業務の遂行について

■第15回
障害者雇用において職業紹介業者が留意すべき点について

■第16回
マイナンバー法施行に伴う職業紹介業者の留意すべき点について

■第17回
現在政府で検討されている職業紹介事業の見直しについて

■第18回
労働関係法令違反があった事業主からの新卒求人の取扱いについて

■第19回
地方分権を踏まえたハローワークの職業紹介等の改革について

■第20回
同一労働同一賃金と職業紹介上の留意点

■第21回
職業紹介事業に関する制度改正についての建議

■第22回
改正個人情報保護法の施行に向けて

■第23回
職業紹介事業に関する制度改正について

■第24回
働き方改革の概要について

■第25回
「職業紹介事業に関する制度改正について」と「改正個人情報保護法の施行に向けて」の改訂について

■第26回
民法改正の職業紹介業務への影響について

■第27回
紹介手数料不払い、求人者の倒産等への対応

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