第4回 暴力団関係者からの求人・求職申込みへの対応について
紹介所は、職業安定法5条の5及び6により、原則としてすべての求人・求職の申込みを受理しなければならないとされているところ、本年10月1日で、暴力団に対する利益供与を禁止する条例が全国的に制定・施行され満2年を迎え、暴力団との関係についての取締当局の対応が一層厳しくなっていることから、暴力団関係者(注1)からなされた求人・求職申込みへの対応について、紹介所としてどのように対応したらよいのか、検討してみることとする。
1 求人申込みの取扱い
求人申込みがなされると、原則としてその時点で、紹介所と求人者との間に紹介契約が成立し、紹介所としては求人者に対し契約上の義務(善管注意義務)を負うことになる。
この場合、暴力団関係者からの求人申込みを拒否できるかであるが、法律上は申込の内容が法令違反等の場合でなければ受理しなければならないとされていることから、違法行為を行うことをその求人の職務内容としていたときは、拒否できると考えられるとして、暴力団関係者であることを理由として拒否することが当然にできるとは考えられない。
この点に関しては、各都道府県で制定されている暴力団排除条例との関係を考慮する必要がある。そこで、東京都の例でみると、東京都暴力団排除条例では、「暴力団の活動を助長し、又は暴力団の運営に資することとなることを知って」利益供与することを禁止していることから(24条3項)、暴力団にその構成員を含めその活動を支える者を紹介することは、この条項に違反すると考えられるので、紹介所としてその業務処理に当たって法令違反を犯すことはそもそも禁止されていることであり、職業安定法以前の問題として、当然に求人申込みを拒否できると考えられる。
なお、求人者が暴力団関係者か否か不明の場合の対処として、紹介契約に、暴力団排除に係る特約条項(契約解除条項)を設けることが適当であり(上記条例18条2項。別紙1「暴力団排除条項」及び別紙2 Q3参照)、この旨を紹介所の業務運営規程(約款として紹介契約の内容となる)に記載しておくことが望ましい。
暴力団関係者であるとは知らずに、求職者に紹介した場合の紹介所の責任については、求職者との紹介契約上紹介所が負っている善管注意義務の範囲として求人者の身元調査が含まれているとは通常考えられないが、通常人でも暴力団関係者であると分かるような場合には、その責任が生じうる(新聞、テレビ、インターネット等により、関係情報の入手が容易にできる場合等。このため、紹介所としては、このような情報収集に心がけることが望まれる。なお、上記条例18条1項参照)。
おって、暴力団関係者か否かが疑われるが確たる証拠がないような場合については、最寄りの警察署に問い合わせると、事案によっては、暴力団関係者か否かに関する情報提供を受けることができる(注2)。
2 求職申込みの取扱い
求職申込みの取扱いについては、基本的には、求人申込みの取扱いと同様に考えることができる。
ただ、求職申込みの場合、求職者が暴力団関係者であるからといって、当然に拒否できるわけではない。求職者として正業に就くことを希望している場合には、受理し紹介あっせんに努めることが必要である。このほかの場合であっても求職申込みの場合は、その拒否は原則的には困難と考えられる。拒否が可能な場合としては、違法行為を行うことをその求職内容としているとき、あるいは正業に就くふりをし就職した会社から不当な利益を得ようとすることが明らかなときのような例外的な場合に限定されると考えられる。
なお、暴力団関係者であるとは知らずに、求人者に紹介した場合の紹介所の責任については、求人者
との紹介契約上紹介所が負っている善管注意義務の範囲として求職者の身元調査が含まれているとは通常考えられないので、明らかに暴力団関係者と分かり、かつ違法行為を企んでいると認められる場合のような例外的な事例を除き、その責任が問題となることはないと考えられる。
また、万一の場合に備えて、紹介契約に、暴力団排除に係る特約条項(契約解除条項)を設けることが適当であり(東京都暴力団排除条例18条2項。別紙1「暴力団排除条項」及び別紙2 Q3参照)、この旨を紹介所の業務運営規程(約款として紹介契約の内容となる)に記載しておくことが望ましい。
3 おわりに
暴力団関係者から求人・求職申込みがなされることは、それほど頻繁にあるとは考えられないが、暴力団排除の動きが全国的にその広がりを見せ、暴力団に対する取締当局の対応が厳しくなっている現状を踏まえると、紹介所としても、業務の適正な運営を図る観点から、暴力団排除に向け積極的に取り組むことが非常に重要になっているので、この点について、紹介所として充分留意することが必要であると考える。
(注1)暴力団関係者とは、次の者をいう(別紙1「暴力団排除条項1条」)。
暴力団、暴力団員、暴力団員でなくなった時から5年を経過しない者、暴力団準構成員、暴力団関係企業、総会屋等、社会運動等標ぼうゴロ、特殊知能暴力集団、その他前各号に準ずる者
(注2)別紙2 Q2参照。
東京都の場合―平日8:30 ~ 17:15 専用フリーダイアル 0120-342-110。
他の道府県については、それぞれの道府県警察本部の担当部署へ問合せのこと
別紙1 暴力団排除条項 【(公財)暴力団追放運動推進都民センターのホームページより転載】
●導入することで、事実上「コンプライアンス宣言」と同様な効果があります。
●契約時に、契約相手を牽制し、偽装契約を抑制する効果があります。
●契約後、相手方が暴力団等反社会的勢力と判明した場合、契約解除の根拠となります。
暴力団排除条項を導入し、活用していくことは、暴力団等反社会的勢力との関係を遮断するために極めて有効な施策です。
また、これに加えて、「表明・確約書」の作成・提出を求めることが、相手の意思表示を更に明確にすることとなり、契約時の確認、事後の処理に極めて有効となります。
【暴力団排除条項の文例】
第○条 反社会的勢力の排除
1 甲は、乙が以下の各号に該当する者(以下「反社会的勢力」という。)であることが判明した場合には、何らの催告を要せず、本契約を解除することができる。
① 暴力団
② 暴力団員
③ 暴力団員でなくなった時から5年を経過しない者
④ 暴力団準構成員
⑤ 暴力団関係企業
⑥ 総会屋等
⑦ 社会運動等標ぼうゴロ
⑧ 特殊知能暴力集団
⑨ その他これらに準ずる者
2 甲は、乙が反社会的勢力と以下の各号の一にでも該当する関係を有することが判明した場合には、何らの催告を要せず、本契約を解除することができる。
① 反社会的勢力が経営を支配していると認められるとき
② 反社会的勢力が経営に実質的に関与していると認められるとき
③ 自己、自社若しくは第三者の不正の利益を図り、又は第三者に損害を加えるなど、反社会的勢力を利用していると認められるとき
④ 反社会的勢力に対して資金等を提供し、又は便宜を供与するなどの関与をしていると認められるとき
⑤ その他役員等又は経営に実質的に関与している者が、反社会的勢力と社会的に非難されるべき関係を有しているとき
3 甲は、乙が自ら又は第三者を利用して以下の各号の一にでも該当する行為をした場合には、何らの催告を要せず、本契約を解除することができる。
① 暴力的な要求行為
② 法的な責任を超えた不当な要求行為
③ 取引に関して、脅迫的な言動をし、又は暴力を用いる行為
④ 風説を流布し、偽計又は威力を用いて甲の信用を棄損し、又は甲の業務を妨害する行為
⑤ その他前各号に準ずる行為
4 ① 乙は、乙又は乙の下請又は再委託先業者(下請又は再委託契約が数次にわたるときには、その全てを含む。以下同じ。)が第1項に該当しないことを確約し、将来も同項若しくは第2項各号に該当しないことを確約する。
② 乙は、その下請又は再委託先業者が前号に該当することが契約後に判明した場合には、直ちに契約を解除し、又は契約解除のための措置を採らなければならない。
③ 乙が、前各号の規定に反した場合には、甲は本契約を解除することができる。
5 ① 乙は、乙又は乙の下請若しくは再委託先業者が、反社会的勢力から不当要求又は業務妨害等の不当介入を受けた場合は、これを拒否し、又は下請若しくは再委託先業者をしてこれを拒否させるとともに、不当介入があった時点で、速やかに不当介入の事実を甲に報告し、甲の捜査機関への通報及び甲への報告に必要な協力を行うものとする。
② 乙が前号の規定に違反した場合、甲は何らの催告を要さずに、本契約を解除することができる。
6 甲が本条各項の規定により本契約を解除した場合には、乙に損害が生じても甲は何らこれを賠償ないし補償することは要せず、また、かかる解除により甲に損害が生じたときは、乙はその損害を賠償するものとする。
別紙2 東京都暴力団排除条例 Q & A 【警視庁のホームページより転載】
[契約関係]
Q1 事業者は、契約を締結する場合には、契約の相手方が暴力団員であるか否かを必ず確認しなければならないのですか?
A 条例では、事業者が事業に関して締結する契約が「暴力団の活動を助長し、又は暴力団の運営に資することとなる疑いがあると認められる場合」に、契約の相手方が暴力団関係者でないかを確認するよう努める旨を定めています(第18条第1項)。
この規定については、努力義務規定であり、例えば、スーパーやコンビニで日用品を売買するなど、通常、一般的に取引の相手方について身分を確認しないような場合についてまで、あえて相手方の確認をするよう求めるものではありません。
Q2 契約を締結する場合に、契約の相手方が暴力団員であるか否かを確認する方法について教えてください。
A 警察では、暴力団との関係遮断を図るなど暴力団排除活動に取り組まれている事業者の方に対し、契約相手が暴力団関係者かどうかなどの情報を、個々の事案に応じて可能な限り提供します。事業者の方で契約相手が暴力団関係者かもしれないとの疑いを持っているものの、本人に確認することが困難であるような場合などには、最寄りの警察署、組織犯罪対策第三課又は(公財)暴力団追放運動推進都民センターにご相談ください。
Q2の2 警察に相談して情報提供を受けるために準備するものはありますか?
A 確認を求める契約相手の氏名、生年月日(可能であれば住所)が分かる資料や、お持ちの場合は暴力団排除の特約を定めた契約関係資料、契約相手が暴力団関係者の疑いがあると判断した資料(理由)などを準備してください。
Q2の3 警察から暴力団関係者に該当するとの情報提供を受け、契約締結を拒絶する際、警察からの情報に基づくことを相手方に伝えてもよいですか?
A 契約自由の原則(契約を締結するか否かを決定する自由及び誰と契約するかの契約の相手方選択の自由)により、拒絶する理由を相手方に説明する義務はありませんが、必要であれば伝えてかまいませんので、情報提供を受けた警察部署に相談してください。
Q2の4 警察からはどのような情報を提供してもらえますか?
A 事案にもよりますが、相手方が暴力団員か、暴力団員と密接な関係を有する者かなどの情報を提供します。
Q3 契約を締結する場合には、必ず契約書に暴力団排除に係る特約条項を設けなければならないのですか?
A 条例では、事業者が「その行う事業に係る契約を書面により締結する場合」において、特約条項を書面に定めるよう努める旨を定めています(第18条第2項)。
これについても、努力義務規定であり、書面により締結する全ての契約について特約条項を定めなければならないというものではありません。
しかしながら、契約の締結後に相手方が暴力団関係者であることが判明した場合において、催告なく解除するなどの対処ができるよう、可能な限り契約書面に特約条項を盛り込むように努めてください。
Q4 契約の相手方が暴力団関係者であることが判明した場合に「催告することなく契約を解除することができる」ようにするためには、どのようにすればよいのですか?
A 契約を締結する際に契約の相手方から、自己が暴力団員、暴力団関係者でないことを表明する書面(表明確約書※)を徴するようにして、暴力団でないことを確約するよう求めてください。
さらに、このような書面とあわせて、契約締結後に契約相手が暴力団員等であることが分かった場合には、その契約を解除することができるように、契約書に特約条項を設けておけば、後に相手方が暴力団関係者であると判明したときに、関係遮断を行うことができます。(Q3を参照)
※ 「表明確約書」とは、契約する際に、相手方から現在又は将来にわたって、「自分は暴力団員ではないこと」、「暴力団との関係がないこと」及び「暴力的な要求行為等を行わないこと」を表明させ、これに違背した場合や虚偽の申告をした場合には、無催告で解約に応じ、これによって生じた損害を自分の責任とすることを確約させる文書です。なお、詳しい事項については、(公財)暴力団追放運動推進都民センターのホームページで確認してください。 「表明確約書」の記載例については、(公財)暴力団追放運動推進都民センターホームページ 「暴追東京ねっとわーく Vol.39」PDFファイル からダウンロードすることができます。
【警視庁のホームページより転載】