職業紹介をめぐる法的な問題等について

第3回 職業紹介と消費者契約法等との関係

はじめに

民間で行われている職業紹介は、基本的には職業安定法により規律されているが、求職者と紹介所との間には準委任契約の性格をもつ紹介契約が成立していることから、職業安定法のほか消費者保護に関する法律の適用も考えられるところである。
 そこで、今回は職業紹介と消費者保護関連法との関係について検討してみることとする。

1 消費者契約法との関係

求職者と紹介所との間には準委任契約の性格をもつ紹介契約が成立しているが、この紹介契約は求職者という個人と紹介事業という事業を行う紹介所との間で締結された契約なので、消費者契約法が適用される消費者契約(注1)の範疇に含まれるものであり、紹介契約には消費者契約法が適用される(求人者との紹介契約は通常求人者は事業者となるので、消費者契約法の適用はないが、家政婦さんの求人者である個人家庭との紹介契約には適用がある)。

(1)紹介契約の取消し

紹介契約の場合、消費者契約法との関係で問題となる条文としては、3条、4条、7条~11条が考えられるが、11条により民法、商法の適用及び職業安定法の適用も認められていることから、消費者契約法でその適用が最も問題となる4条の規定(紹介契約の取消し)については紹介契約が準委任契約の性格をもつことから、特約のない限り、民法651条により求職者はいつでも紹介契約の取消しが可能なので、主として問題となるのは、8条~10条である。
 なお、4条により取消が認められるのは、求人内容を実際より良く表示する(4条1項1号)、必ず就職できる旨表示する(4条1項2号)、求職者に不利益な事実を伝えない(4条2項)等の場合であり、この取消しはその事実を知ったとき(追認できるとき)から6か月以内に行使することを要するとされている(7条1項)が、このような場合であっても民法651条の適用があり、特約のない限り、6か月以内に取消権が制限されているとは考えられないと解する(11条・注2)。

(2)紹介所の損害賠償責任を免除する条項の無効

紹介所の損害賠償責任を免除する条項は無効とされている(8条)ことから、例えば、紹介所は紹介に際して求職者に生じた損害について一切責任を負わない旨―例えば紹介所が負っている善管注意義務(民法644条)を免除する条項―を求職者との間で定めたとしてもこの条項は法的には効力はないとされる。

(3)求職者が支払う損害賠償の額を予定する条項等の無効

求職者が支払う損害賠償の額を予定する条項は一定の場合に無効とされており(9条)、例えば、求職者が一方的に紹介契約を解除したときは一定額以上の損害賠償・違約金を支払う旨を求職者との間で定める条項は法的には無効となる。この場合、求職者からは原則として紹介手数料を徴収することが職業安定法により禁止されていることを踏まえると、紹介業者に生じる損害として想定されるものは通常考えられないので、このような求職者が支払う損害賠償の額を予定する条項が機能する場面を想定することは困難である。

(4)求職者の利益を一方的に害する条項の無効

求職者の利益を一方的に害する条項を無効としている(10条)。この条項は包括的に求職者の利益を保護しており、紹介所としては求職者の立場を十分考慮した対応が求められている。
 なお、求職者との紹介契約に3か月等の有効期間を設けることが広く行われているが、この点は、前述の民法・職業安定法の規制を考慮すれば、必ずしも一方的に求職者の利益を害するものとは考えられない。
 以上のように、紹介所としては、求職者との紹介契約において、このような消費者契約法の条項に違反する定めをしないよう十分注意する必要がある。

(5)その他

また、紹介所としては、3条により紹介契約の内容を明確・平易なものとなるよう配慮するとともに、求職者の権利義務その他紹介契約の内容について必要な情報を提供するよう努めることが求められている点にも留意しなければならない。この点は、職業安定法上も個人情報の保護や苦情処理に関する規定が設けられているが、消費者契約法によりさらに一層この点を十分踏まえた対応を執ることが求められているといえる。
 なお、消費者契約法は、国が契約当事者になる場合にも適用があるので、ハローワークと求職者との関係を民間と同様に契約関係と解する場合には、ハローワークの職業紹介にも適用されることとなるが、ハローワークと求職者との関係については、別途の機会に検討することとしたい。

2 特定商取引に関する法律(特商法と略する)との関係

特商法は、訪問販売、通信販売等消費者とトラブルが生じやすい取引類型を対象に、事業者が守るべきルールとクーリングオフ等の消費者を守るルールを定めた法律である。
 特商法の対象となる取引類型のうち、職業紹介との関連で特に問題となるのは、通信販売である。
 特商法にいう通信販売とは、新聞、雑誌、インターネット等で広告し、電話、インターネット、ファクシミリ等の通信手段により売買契約又は役務提供契約の申し込みを受けて行う商品、権利又は役務の提供のことである。
 職業紹介は、求職者に求人者を紹介するという役務(サービス)の提供を行うものであることから特商法にいう役務の提供に該当すると考えられる。
 そこで、職業紹介に当たって、求職者に対しインターネット等で求職申込に関する広告をしインターネット等でその申込みを受ける行為は、特商法にいう通信販売に該当し、特商法の規制対象(クーリングオフ等は適用されない)に含まれると考えられる。
 その規制内容は、職業紹介について考えると、次のとおりである。

(1)広告で必ず表示しなければならない事項(11条)

インターネットでの求職者の募集広告については、次の事項を明示する必要がある。なお、求職者からの請求によって以下の事項を記載した書面(電子メールでもよい)を遅滞なく提供することを広告に表示しかつ実際に請求があった場合に遅滞なく提供できる措置を講じている場合は、一部省略できる。

・紹介に関する対価―求職受付手数料(家政婦・夫、マネキン等に限る。モデル、芸能家等の場合は紹介手数料を含む。また、家政婦・夫さんの求人者である個人家庭の場合も含む。下記において同じ)

・求職受付手数料の支払い時期・方法

・求人者の紹介サービスを行う時期(遅滞なく提供する場合は省略できる)

・紹介所の名称(氏名)、住所、電話番号

・法人である紹介所の場合は、代表者又は紹介責任者の氏名(省略できる)

・求人者の紹介サービスについて特別な提供条件があるときは、その内容

・紹介所の電子メールアドレス

(2)誇大広告の禁止(12条)

表示事項について、「著しく事実に相違する表示」や「実際のものより著しく優良であり、もしくは有利であると求職者を誤認させるような表示」は禁止されている。
 この点に関しては、既に、職業安定法により、労働条件等の明示義務及び募集内容の的確な表示が、紹介所に求められているが(職業安定法指針(平成11年労働省告示141号)の第3参照のこと)、特商法上の要件に該当する場合は同法違反の対象にもなるので、この点についても留意する必要がある。

(3)未承諾の求職者に対する電子メールでの求人情報の提供の禁止(12条の3、12条の4)

あらかじめ求職者が承諾しない限り、紹介所は求人情報を電子メールで提供することが、原則禁止されている(オプトイン原則)。

(4)求職者の意に反して紹介契約の申込みをさせようとする行為の禁止(14条)

求職者が求職申込みをする際、申込内容を容易に理解しかつ訂正できるように措置していることが必要とされている。

(5)行政処分等

上記の行政規制に違反した紹介所は業務改善の指示(14条)や業務停止命令(15条)などの行政処分(経済産業大臣・都道府県知事)・罰則の対象となる。
 なお、この行政処分等は、職業安定法上の処分とは別になされる(職業安定法違反と特商法違反が同時に成立する場合もありうる)。
 なお、上記の規制は、国(ハローワーク)及び地方公共団体の行う紹介サービスには適用されない(26条)。

3 不当景品類及び不当表示防止法(景品表示法と略する)との関係

景品表示法は、サービス等の内容や価格その他の取引条件についての不当表示について規制しているが、職業紹介との関係では、

① 紹介サービス等の内容を、実際のものより、あるいは事実に相違して他の紹介所より著しく優良であると求職者に示すこと(4条1項1号)

② 紹介サービス等の価格その他の取引条件を実際のものより、あるいは事実に相違して他の紹介所より著しく優良であると求職者に誤認される表示をすること(4条1項2号)

を禁止している。

禁止する行為に対しては、消費者庁(都道府県知事は違反行為の取りやめ等の指示権限を、また調査に関しては公正取引委員会も権限を有する)より、誤認の排除、再発防止策の実施等の措置命令が出される。

おわりに

以上、民間の紹介所の紹介サービスについて、職業安定法のほかに、求職者保護のために設けられている消費者保護関連法に関して検討してきた。この点に関しては、これまでほとんど検討されたことはないので、本検討にはなお不十分な点や不正確な点があることも予想されるが、今後とも更に検討を重ねていきたいと考えているところである。

(注1)消費者契約法においては、
「消費者契約」とは、消費者と事業者との間で締結される契約をいうとされている(2条3項)。
 ここでいう「消費者」とは、個人(事業として又は事業のために契約の当事者となる場合におけるものを除く)をいい、「事業者」とは法人その他の団体及び事業として又は事業のために契約の当事者となる場合における個人をいうとされている(2条1項及び2項)。
 なお、派遣労働者と派遣元との間を含む労働契約については、労働基準法等の保護規定があることを考慮して、消費者契約法は適用されない(48条)。

(注2)特約で求職者の紹介契約の取消しを制限するようなことは、求職者からの紹介手数料の徴収が原則的に認められていないこと、求職者は紹介された求人に応募する義務はないこと等を踏まえると、現実には考えにくいことに加え、このような特約は(4)に該当し無効となる可能性がありうる。

(注3)消費者契約法と特商法・景品表示法との関係
消費者契約法は、同法に違反する行為について民事的な効力を否定する規定を置くが、特商法・景品表示法はその規制するインターネット等による広告について民事的な効力を規定しておらず、行政処分・罰則の対象となるだけである点で、これらの法律の適用について異同があるが、消費者契約法と特商法・景品表示法とは同一の契約についてそれぞれの法律の適用要件を満たせば、同時に適用される。

職業紹介をめぐる
法的な問題等について

■第1回
職業紹介の法的性格とその内容
について

■第2回
職業紹介、労働者派遣及び労働
者供給の相互関係

■第3回
職業紹介と消費者契約法等との
関係

■第4回
暴力団関係者からの求人・求職
申込みへの対応について

■第5回
職業紹介における個人情報保護
のあり方について

■第6回
紹介業者の善管注意義務について

■第7回
職業紹介における労働条件等の明示について

■第8回
紹介所と労働組合のかかわり

■第9回
手数料について

■第10回
ハローワークと求人者・求職者の職業紹介を巡る法的関係について

■第11回
事業譲渡、合併、会社分割等における紹介事業の許可等の取扱い

■第12回
固定残業代の記載がある求人票への対応について

■第13回
民法改正案の職業紹介業務への影響について

■第14回
最近の法改正を踏まえた適正な職業紹介業務の遂行について

■第15回
障害者雇用において職業紹介業者が留意すべき点について

■第16回
マイナンバー法施行に伴う職業紹介業者の留意すべき点について

■第17回
現在政府で検討されている職業紹介事業の見直しについて

■第18回
労働関係法令違反があった事業主からの新卒求人の取扱いについて

■第19回
地方分権を踏まえたハローワークの職業紹介等の改革について

■第20回
同一労働同一賃金と職業紹介上の留意点

■第21回
職業紹介事業に関する制度改正についての建議

■第22回
改正個人情報保護法の施行に向けて

■第23回
職業紹介事業に関する制度改正について

■第24回
働き方改革の概要について

■第25回
「職業紹介事業に関する制度改正について」と「改正個人情報保護法の施行に向けて」の改訂について

■第26回
民法改正の職業紹介業務への影響について

■第27回
紹介手数料不払い、求人者の倒産等への対応

ページトップへ

トップページ 一般財団法人 日本職業協会について 職業に関する情報・資料等 リンク集