職業紹介をめぐる法的な問題等について

第2回 職業紹介、労働者派遣及び労働者供給の相互関係

働きたい人と仕事を結びつける仕組み・制度―労働力需給システム―としては、代表的なものとして職業紹介、労働者派遣及び労働者供給が存在するところ、これらの相互関係について、その異同を明らかにすることにより、各事業が、それぞれの特徴を踏まえ、適正・適法に実施される上での一助としたい(下図参照)。

図

1 職業紹介とは

職業紹介とは、求人及び求職の申込みを受け、求人者と求職者との間における雇用関係の成立をあっせんすることをいう(職業安定法4条1項)とされている。
 前回解説したように、職業紹介を行う者と求職者・求人者との間には、紹介契約(準委任契約)が成立している(本ホームページ掲載の前回解説参照)。
 なお、職業安定法は、業として行われる―反復継続してあるいはその意思を持って行われる―職業紹介しか規制をしていない(注1)ので、例えば一回限りの単発的な職業紹介は違法なものとはされていない。

2 労働者派遣とは

労働者派遣とは、自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させることをいい、当該他人に対し当該労働者を当該他人に雇用させることを約してするものを含まないものをいう(労働者派遣法2条1号)とされている。
 したがって、派遣される労働者と派遣をする者との間には雇用関係があるが、派遣を受け入れる者との間には、原則として、雇用関係はなく、事実上の指揮命令関係しかない(注2)。
 なお、労働者派遣法は、業として行われない―反復継続の意思をもって行われない―労働者派遣をもその規制対象としている(労働者派遣法2条2号、26条、39条、43条、44条等)ことから、労働者派遣が業として行われない場合であっても違法となることがある(注3)。

3 労働者供給とは

労働者供給とは、供給契約に基づいて労働者を他人の指揮命令を受けて労働に従事させることをいい、労働者派遣に該当するものを含まないものをいう(職業安定法4条6項)とされている。
 この労働者供給の概念には、大きく分類して3つのものが含まれている。
 1つめが、供給元・供給先双方と雇用関係がある―二重の雇用関係があるもの、在籍型の出向がその典型例である。
 2つめが、供給元・供給先双方とも雇用関係がないもの(支配従属関係や使用関係があるもの)、いわゆる暴力団による人夫出しといわれるものである。
 3つめが、供給元とは支配従属関係があり供給先とは雇用関係があるもの―労働組合等により行われる、いわゆる組合労供である。
 なお、職業安定法は、業として行われない労働者供給については規制の対象とはしていないので(注1)、その合法・違法が問題になることはない(6参照))。労働者供給が違法となるのは、業として行われる場合に限られる。

4 職業紹介と労働者派遣・労働者供給との異同

職業紹介と労働者供給とは上記1及び3で述べたように、基本的に異なるものであるが、職業紹介はその実態によっては、労働者供給の3番目の類型と極めて近いものとなるおそれがある。すなわち、職業紹介の場合は求人者と求職者との間に、労働者供給の3番目の類型の場合も供給される者と供給先との間にそれぞれ雇用関係がある点では類似しており、両者が異なった形態とされているのは、紹介所と求職者との間には支配従属関係がないことによるものである。したがって、職業紹介の場合に、紹介所と求職者との間に支配従属関係が生じていると認められるようなときには、労働者供給となるおそれがある(6参照)。
 なお、職業紹介の場合は、雇用関係が紹介所(派遣元と対比される)と求職者間にはなく求人・求職者間にある点で、労働者派遣とは異なっている。

5 労働者派遣と労働者供給との異同

労働者派遣は、従前は労働者供給の1形態であったが、上記3で述べた労働者供給の概念から明らかなように、労働者派遣事業を制度化した際に労働者供給から取り出して新たに定義づけられたものである。したがって、現行法では、合法・違法を問わず、労働者派遣は労働者供給とは異なるものとなっている(労働者派遣が違法な場合に、違法な労働者供給となるわけではない(注4))。
 なお、労働者派遣の場合は労働者供給と異なり、業として行われないものも規制されているが、この点は、労働者派遣事業の制度化の際に、新たに規制対象となったものである。
 また、労働者派遣と請負・委任等との相違が問題とされているところ、請負等の場合は、発注者と請負主との間に請負契約等が結ばれているが、請負主の労働者は発注者とは雇用関係や使用関係がなく、請負主の指揮命令を受けて働くものであり、発注者から指揮命令を受けるときは、請負ではなく労働者派遣に該当することになる。これがいわゆる偽装請負といわれるものであり、違法とされている。

6 職業紹介事業と労働者供給事業との関係

イ 職業紹介事業は、労働者供給事業とは別個のものであるが、上記4で述べたように、求職者と紹介所との関係如何によっては労働者供給事業に該当することになる場合がある。
 例えば、紹介所と求職者の関係が、単なる求職申込・受理の関係を超え、より濃密な関係(他の紹介所への求職申込を認めない、求職者を同居させる、賃金を求職者の代わりに受領し・支払う等)が認められる場合には、紹介所と求職者の関係に支配従属関係があるとされることがあり、そうなると職業紹介事業ではなく原則禁止されている労働者供給事業とみなされることになる。なお、この場合は、違法な労働者供給事業を行うものとして罰則(1年以下の懲役又は100万円以下の罰金―職業安定法44条・64条9号。なお、紹介先(供給先)にも同様の罰則が適用される)の対象となる。
 このように、職業紹介事業と労働者供給事業との関係が問題となることがあるので、紹介所としては、その事業運営に当たって十分留意する必要がある。

ロ なお、労働者供給事業には、上記3で述べた労働者供給の概念から分かるように3つの類型が含まれている。このうちの第1の類型は出向であるが、世上広く行われている出向が法規制の対象となっていないのは、業として行われていないことによる(行政解釈として、経営指導・技術指導のため、職業能力開発のため、余剰人員対策として関係会社での雇用機会の確保のため、あるいは企業グループ内の人事交流ため等に行われる場合は、社会通念上業として行われていると判断しうるものは少ないと考えられるとされている(注5))。
 したがって、仮に業として行われる出向というものがあれば、それは法規制の対象となり、禁止される労働者供給事業となる(上記の行政解釈を超えて行われる、例えば単なる人員配置上の要請から行われるもの等は問題が生じうる)。

  第2の類型は、暴力団等がその支配下にある組員等を供給し利益を得る形態が代表的なものであり、一般的にみて違法性が高く、通常業として行われるものとして(反復継続の意思があるものとして)、法規制の対象となり、禁止されているものである。この点に関し、二重派遣―派遣された労働者を再度派遣すること―は、この類型に該当し、禁止されていることに留意する必要がある(二重派遣の場合は、労働者供給事業となるので、2番目以降の派遣先にも、罰則の適用がある)。

  第3の類型は、労働組合等により事業として行われているが、この場合は、職業安定法45条により、厚生労働大臣の許可を受けて無料で行われる場合にのみ合法となる。この形態は供給先と雇用関係が生じることから、職業紹介と極めて類似した形態と考えられる(この点からみてイで触れたように、職業紹介事業においても紹介所と求職者との関係が濃密になると労働者供給事業との関係が問題化する)が、供給先と対象労働者(労働組合等の組合員)との雇用関係は、供給元(労働組合等)と対象労働者(労働組合等の組合員)の関係(組合員であること)が維持されていること及び供給先と供給元(労働組合等)との供給契約が有効であることが前提となっており、この関係のいずれかが消滅したときは、同時に供給先との雇用関係も消滅すると考えられている(注6)。
 なお、この類型では、無料が要件とされていることから、組合費との関係が問題となるが、供給回数と組合費の額とが連動しているような場合を除き、無料制は担保されているとみて差し支えないであろう。

7 職業紹介事業と労働者派遣事業との関係

職業紹介事業と労働者派遣事業との関係については、職業紹介事業の場合は、派遣元と対比される紹介所と求職者との間には通常雇用関係があるとは認められないので、この点で両者の関係が問題となることはないと考えられる。

8 労働者派遣事業と労働者供給事業との関係

上記5で述べたように、労働者派遣事業は、もともとは労働者供給事業の1形態であったが、労働者派遣事業が制度化された際に、原則禁止されていた労働者供給事業の中から取り出して制度化されたものである。また、この制度化の際に、労働者保護の観点からみて問題の少ない形態である点を考慮し、労働者派遣事業を行う事業主から派遣される労働者を受け入れる者に対する罰則が廃止されたところである(労働者派遣事業を除いた労働者供給事業については、従前どおり供給先に対する罰則がある)。

(注1)なお、業として行われるか否かにかかわりなく、暴行・脅迫等による、及び公衆衛生等上有害な業務への職業紹介・労働者の供給は禁止されている(職業安定法63条)。また、労働者派遣についても、同様の規制がなされている(労働基準法5条、労働者派遣法58条)。

(注2)例外的に、派遣労働者が自己の自由意思により、派遣先と直接雇用契約を結んだときは、結果的に労働者派遣となりうるが、この場合は、派遣元との雇用関係がそのまま認められるかとの問題があり、雇用関係が解消されたと考えられるときは、労働者派遣ではなくなる―改正労働者派遣法に盛り込まれた「雇用契約の申込みなし」(40条の6。平成27年10月1日施行)に対する派遣労働者の承諾の場合にも同様の事態が生じるが、この場合は雇用契約の申込みなし制度の趣旨からして、承諾の直後に派遣元に対する雇用契約の解約の申込がなされ、この解約申込には正当事由があるものとして派遣元との雇用契約は終了しているとみるべきではないかと考えられる。

(注3)「違法な労働者派遣」概念について
 労働者派遣は、価値中立的な行為概念でありそれ自体に合法違法を論ずる余地はなく「違法な労働者派遣」概念はあり得えず、あり得るのは違法な労働者派遣事業だけだとする見解がみられるが、これは労働者派遣法の理解が十分でないことによる誤解である。すなわち、労働者派遣法はその規制対象に従前の労働者供給とは異なり事業性のない労働者派遣も含めており(労働者派遣法2条2号、26条等)、この規制に違反する労働者派遣―例えば、労働者派遣契約の内容が要件を満たしていない場合等―は違法な労働者派遣となる。この点は、業として行われるものしか規制していない労働者供給や職業紹介とは異なっているので、留意する必要がある。
 このような誤解が生じるのは、労働者派遣法が、各種の用語について、規制内容を考慮して微妙にその定義を変えており(参考参照)、このことを十分理解せずに、同法を解釈することから生じているものと考えられる。

(注4)松下プラズマ事件(最判平成21年12月18日)

(注5)労働者派遣事業関係業務取扱要領 10頁ホ 参照

(注6)鶴菱運輸事件(横浜地判昭和54年12月21日)、泰進交通事件(東京地判平成19年11月16日)等。)

(参考)労働者派遣法上定義規定が微妙に異なっている例
  1 労働者派遣を行う主体に関するもの
    ① 労働者派遣をする事業主
    ② 労働者派遣事業を行う事業主
    ③ 派遣元事業主
    ④ 一般派遣元事業主
    ⑤ 特定派遣元事業主
    ⑥ 派遣元の使用者
  2 労働者派遣を受け入れる主体に関するの
    ① 労働者派遣の役務の提供を受ける者
    ② 労働者派遣の役務の提供を受ける事業主
    ③ 派遣先(2条6号と31条等ではその範囲が異なっている)
    ④ 派遣先の事業主

職業紹介をめぐる
法的な問題等について

■第1回
職業紹介の法的性格とその内容
について

■第2回
職業紹介、労働者派遣及び労働
者供給の相互関係

■第3回
職業紹介と消費者契約法等との
関係

■第4回
暴力団関係者からの求人・求職
申込みへの対応について

■第5回
職業紹介における個人情報保護
のあり方について

■第6回
紹介業者の善管注意義務について

■第7回
職業紹介における労働条件等の明示について

■第8回
紹介所と労働組合のかかわり

■第9回
手数料について

■第10回
ハローワークと求人者・求職者の職業紹介を巡る法的関係について

■第11回
事業譲渡、合併、会社分割等における紹介事業の許可等の取扱い

■第12回
固定残業代の記載がある求人票への対応について

■第13回
民法改正案の職業紹介業務への影響について

■第14回
最近の法改正を踏まえた適正な職業紹介業務の遂行について

■第15回
障害者雇用において職業紹介業者が留意すべき点について

■第16回
マイナンバー法施行に伴う職業紹介業者の留意すべき点について

■第17回
現在政府で検討されている職業紹介事業の見直しについて

■第18回
労働関係法令違反があった事業主からの新卒求人の取扱いについて

■第19回
地方分権を踏まえたハローワークの職業紹介等の改革について

■第20回
同一労働同一賃金と職業紹介上の留意点

■第21回
職業紹介事業に関する制度改正についての建議

■第22回
改正個人情報保護法の施行に向けて

■第23回
職業紹介事業に関する制度改正について

■第24回
働き方改革の概要について

■第25回
「職業紹介事業に関する制度改正について」と「改正個人情報保護法の施行に向けて」の改訂について

■第26回
民法改正の職業紹介業務への影響について

■第27回
紹介手数料不払い、求人者の倒産等への対応

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