職業紹介をめぐる法的な問題等について

第13回 民法改正案の職業紹介業務への影響について

現在、120年ぶりに民法の債権法分野の全面改正が行われようとしているが(注1)、この改正が、職業紹介業者の方々が行っている職業紹介にどのような影響を及ぼす可能性があり、またそれにどのように対処したらよいのかについて、適正・適法な職業紹介の実施を図るとの観点から、検討してみることとしたい。

1 民法改正案中職業紹介業者に影響を及ぼすと考えられる事項の概要

現在提案されている民法改正案では、債権法分野について広範囲の改正が予定されているが、その中で職業紹介業者に影響を及ぼすと考えられる事項としては、消滅時効、法定利率、契約の成立、定型約款、委任に関する事項がある。

2 各改正事項の職業紹介業者への影響

そこで、これらの事項が職業紹介業者にどのような影響を与えるかについて検討してみる。

(1)消滅時効

職業紹介業者の徴収する手数料についての消滅時効は、現行民法では、10年とされているところ(民法167条1項)、改正案では5年に短縮されることとなっている。この点については、職業紹介業者は商人なので、商法の適用があり、現在でも手数料の消滅時効は5年とされているので(商法522条)、実務上の影響はないと考えられる(なお、この改正に伴い、商法522条は削除されることとなっている)

(2)法定利率

職業紹介業者の徴収する手数料等の支払いがその支払期限より遅れた場合、遅延利息が生じるが、この遅延利息は、現行民法では、年5%とされているところ(民法404条、419条1項)、改正案では3%とされ、3年ごとに銀行の短期貸付利率の平均利率に応じて1%単位で上下することとされている。この点については、職業紹介業者は商人なので、商法の適用があり、現在、法定利率は年6%とされているが(商法514条)、この改正に伴い、法定利率は民法の利率に一元化されることになっている(商法514条は削除されることとなっている)ことから、別段の意思表示がないときは、改正法施行時以降、6%から3%に下がることとなるので、注意を要する。

(3)契約の成立

職業紹介業者と求人者・求職者との間には、紹介契約が成立しているところ(本掲載第1回及び10回参照)、改正案では、新たに「契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示に対して相手方が承諾をしたときに成立する」との規定を追加し、また、現行民法では、契約の成立は、郵便等のお互いの意思表示が即時に到達しない場合には、承諾の通知を相手方に発したときに効力が生じるとされているが(民法526条1項。)、改正案では、民法の原則に戻り(民法97条1項)、その意思表示が相手方に到達したときに効力を生じることとしている(民法562条1項並びに電子消費者契約及び電子承諾通知に関する民法の特例に関する法律1条4項及び4条は削除されることとなっている)。この点については、職業紹介については、求人・求職の申込みがあれば(その旨の意思表示があれば)、原則として、紹介業者の受理する旨の意思表示(承諾の意思表示)がなくとも、紹介契約は成立するとされているので(職業安定法5条の5及び6。これらの条項は、民法の特則と考えられ、民法の規定に優先する)、実務上の影響はないと考えられる。

(4)定型約款

職業紹介業者は、「業務の運営に関する規程」(別紙2参照)を作成し事業所内の一般の閲覧に便利な場所に掲示しなければならないとされているが(職業安定法施行規則24条の5第4項)、この規程は改正法案で新たに規定されることとなっている定型約款に該当すると考えられる。
 定型約款については、今回の民法改正に際し、賛否両論のある中で種々議論が行われ、その議論を経てやっと制定にこぎつけられたものである。
 改正案では、「定型約款とは、定型取引(ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であって、その内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なものをいう)において、契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体をいう」と定義され、
 ① 定型約款についてのみなし合意
 ② 定型約款の内容の表示
 ③ 定型約款の変更
について規定されている(注2・別紙1参照)。これによれば、

◇ ①は、定型約款について、これを契約内容とする旨の合意をしたときあるいはあらかじめこれを契約内容とする旨を相手方に表示していたときは、民法1条2項の信義誠実の原則に反し相手方の利益を一方的に害すると認められるものを除き、定款の内容となっている個別の条項についても合意したものとみなされる。

◇ ②は、相手方から請求があった場合は、定型約款を記載した書面を交付等していたときを除き、定型約款の内容を示さなくてはならず、この請求を拒んだときは、①は適用されない。

◇ ③は、定型約款の変更が、相手方の利益に適合する場合、契約した目的に反せずかつ変更の必要性、変更後の内容の相当性、定型約款を変更することがある旨の定めの有無及びその内容その他の変更に係る事情に照らして合理的なものである場合には、定型約款を変更する旨及び変更後の内容並びに効力発生時期をインターネット等により周知したときは、相手方と個別に合意することなく契約の内容を変更することができるとされている。

この改正に伴い、職業紹介業者は、定型約款たる性格を有する「業務の運営に関する規程」を、上記①から③の要件を充たせば、個別の求人者・求職者の合意を得ることなく改正することができることとなり、業務の迅速・適確な運営をすることが可能となるものと考えられる。他方、この改正により、いままで作成していた「業務の運営に関する規程」の合理性等が問題となる恐れがあるので、改正法施行までに、その内容についての点検・見直しが必要になると考えられるところである。
 なお、民法改正に適合した「業務の運営に関する規程」の考え方については、今後改正法施行までに検討したいと考えている。
 おって、ハローワークの職業紹介についても、民間の職業紹介と法的な性格は異なるところはないと考えられるので(本掲載第10回参照)、今回の民法改正を踏まえ、その業務に関する定型約款を定めることが適当であり、その検討が進められることが望まれるところである。

(5)委任―主として報酬(手数料)に関する部分

紹介契約は、民法上の準委任契約と解され委任に関する規定が適用される(民法656条)ところ、改正案では、報酬-手数料に関し、委任事務を処理することができなくなった場合等の報酬請求権については、

① 委任者(求人者・求職者)の責めに帰することのできない事由によって委任事務(職業紹介業務)の履行をすることができなくなったとき及び

② 委任(紹介契約)が履行の中途で終了したとき(受任者(職業紹介業者)に責任がある場合を含む)は、処理された委任事務(職業紹介業務)の割合に応じて報酬を支払う場合(履行割合型)には既にした履行の割合に応じて、また委任事務(職業紹介業務)の履行により得られる成果に対して報酬を支払う場合(成功報酬型)にはその成果が可分で既履行部分だけで独立して委任者(求人者・求職者)の利益となるときはその受ける利益の割合に応じて、報酬を請求することができることとされ、報酬請求ができる場合を拡大している(現行民法では、報酬に関しては、履行割合型の上記①の場合しか認められていない(民法648条3項))。

職業紹介業者の報酬-手数料は、職業安定法で規制されていることから(注3)、この報酬に関する規定の改正により、直接に影響を受けることは少ないと考えられるが、届出制手数料をとっている場合は、上記改正により報酬請求できる場合が拡大されていることを踏まえ、この改正に応じて届け出る手数料の範囲の見直しを検討することも考えられるところである(民法のこれらの規定は、契約当事者間で変更可能な任意規定なので、既に改正案と同様の手数料としているところもあると思われるが)。

3 おわりに

以上、民法改正案の紹介業者への影響について検討してきたが、職業紹介業者の方々におかれては、今後、国会での同法案の審議状況を見守りつつ、特に定型約款に関する理解を深めることを通じ、職業紹介業務の適正・円滑な運営を図るための方策を検討されていくことを期待したい。

(参考)債権法とは、民法の規定のうち、主として契約に関する法的なルールを定めたものをいい、こ れに対し、所有権等に関し定めた部分は物権法といわれる。

(注1)平成27年3月31日、民法の一部を改正する法律案が国会に提出され、今後審議される見込みと なっている。改正法案では、その施行時期は、公布後3年以内の政令で定める日から施行するとされている(平成30年4月1日からか?)。

(注2)定型約款の内容(民法(債権関係)の改正に関する要綱案(平成27年2月10日))

【別紙1】

第28 定型約款

1 定型約款の定義

定型約款の定義について、次のような規律を設けるものとする。
 定型約款とは、定型取引(ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であって、その内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なものをいう。以下同じ。)において、契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体をいう。

2 定型約款についてのみなし合意

定型約款についてのみなし合意について、次のような規律を設けるものとする。

(1)定型取引を行うことの合意(3において「定型取引合意」という。)をした者は、次に掲げる場合には、定型約款の個別の条項についても合意をしたものとみなす。

ア 定型約款を契約の内容とする旨の合意をしたとき。

イ 定型約款を準備した者(以下「定型約款準備者」という。)があらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示していたとき。

(2)(1)の規定にかかわらず、(1)の条項のうち、相手方の権利を制限し、又は相手方の義務を加重する条項であって、その定型取引の態様及びその実情並びに取引上の社会通念に照らして民法第1条第2項に規定する基本原則に反して相手方の利益を一方的に害すると認められるものについては、合意をしなかったものとみなす。

3 定型約款の内容の表示

定型約款の内容の表示について、次のような規律を設けるものとする。

(1)定型取引を行い、又は行おうとする定型約款準備者は、定型取引合意の前又は定型取引合意の後相当の期間内に相手方から請求があった場合には、遅滞なく、相当な方法でその定型約款の内容を示さなければならない。ただし、定型約款準備者が既に相手方に対して定型約款を記載した書面を交付し、又はこれを記録した電磁的記録を提供していたときは、この限りでない。

(2)定型約款準備者が定型取引合意の前において(1)の請求を拒んだときは、2の規定は、適用しない。ただし、一時的な通信障害が発生した場合その他正当な事由がある場合は、この限りでない。

4 定型約款の変更

定型約款の変更について、次のような規律を設けるものとする。

(1)定型約款準備者は、次に掲げる場合には、定型約款の変更をすることにより、変更後の定型約款の条項について合意があったものとみなし、個別に相手方と合意をすることなく契約の内容を変更することができる。

ア 定型約款の変更が、相手方の一般の利益に適合するとき。

イ 定型約款の変更が、契約をした目的に反せず、かつ、変更の必要性、変更後の内容の相当性、この4の規定により定型約款の変更をすることがある旨の定めの有無及びその内容その他の変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき。

(2)定型約款準備者は、(1)の規定による定型約款の変更をするときは、その効力発生時期を定め、かつ、定型約款を変更する旨及び変更後の定型約款の内容並びにその効力発生時期をインターネットの利用その他の適切な方法により周知しなければならない。

(3)(1)イの規定による定型約款の変更は、(2)の効力発生時期が到来するまでに(2)による周知をしなければ、その効力を生じない。

(4)2(2)の規定は、(1)の規定による定型約款の変更については、適用しない。

「業務の運営に関する規程」厚生労働省作成 様式例第1号

【別紙2】様式例第1号

業務の運営に関する規程

       事業所名

第1 求   人

1 本所は、(取扱職種の範囲等)に関する限り、いかなる求人の申込みについてもこれを受理します。
 ただし、その申込みの内容が法令に違反したり、賃金、労働時間等の労働条件が通常の労働条件と比べて著しく不適当である場合には受理しません。

2 求人の申込みは、求人者又はその代理人が直接来所されて、所定の求人票により、お申込みください。直接来所できないときは、郵便、電話、ファックス又は電子メールでも差し支えありません。

3 求人申込みの際には、業務内容、賃金、労働時間、その他の雇用条件をあらかじめ書面の交付又は電子メールの使用により明示してください。ただし、紹介の実施について緊急の必要があるためあらかじめ書面の交付又は電子メールの使用による明示ができないときは、当該明示すべき事項をあらかじめこれらの方法以外の方法により明示してください。

4 求人受付の際には、受付手数料を、別表の料金表に基づき申し受けます。いったん申し受けました手数料は、紹介の成否にかかわらずお返し致しません。

第2 求   職

1 本所は、(取扱職種の範囲等)に関する限り、いかなる求職の申込みについてもこれを受理します。
 ただし、その申込みの内容が法令に違反する場合には受理しません。

2 求職申込みは、本人が直接来所されて、所定の求職票によりお申込みください。

3 常に、日雇的又は臨時的な労働に従事することを希望される方は、本所に特別の登録をしておき、別に定める登録証の提示によって、求職申込みの手続きを省略致します。

4 (取扱職種の範囲等が、芸能家、家政婦(夫)、配ぜん人、調理士、モデル又はマネキンの場合)求職受付の際には、受付手数料を、別表の料金表に基づき申し受けます。いったん申し受けました手数料は、紹介の成否にかかわらずお返し致しません。

第3 紹   介

1 求職の方には、職業安定法第2条にも規定される職業選択の自由の趣旨を踏まえ、その御希望と能力に応ずる職業に速やかに就くことができるよう極力お世話致します。

2 求人の方には、その御希望に適合する求職者を極力お世話致します。

3 紹介に際しては、求職の方に、紹介において従事することとなる業務の内容、賃金、労働時間その他の雇用条件をあらかじめ書面の交付又は希望される場合には電子メールの使用により明示します。ただし、紹介の実施について緊急の必要があるためあらかじめ書面の交付又は電子メールの使用による明示ができないときは、あらかじめそれらの方法以外の方法により明示を行います。

4 求職の方を求人者に紹介する場合には、紹介状を発行しますから、その紹介状を持参して求人者へ行っていただきます。

5 いったん求人、求職の申込みを受けた以上、責任をもって紹介の労をとります。

6 本所は、労働争議に対する中立の立場をとるため、同盟罷業又は作業閉鎖の行われている間は求人者に、紹介を致しません。

7 就職が決定しましたら求人された方から別表の手数料表に基づき、紹介手数料を申し受けます。

第4 そ の 他

1 本所は、職業安定機関及びその他の職業紹介事業者等と連携を図りつつ、当該事業に係る求職者等からの苦情があった場合は、迅速、適切に対応いたします。

2 雇用関係が成立しましたら、求人者、求職者両方から本所に対して、その報告をしてください。
 また、紹介されたにもかかわらず、雇用関係が成立しなかったときにも同様報告してください。

3 本所は、求職者又は求人者から知り得た個人的な情報は個人情報適正管理規程に基づき、適正に取り扱います。

4 本所は、求職者又は求人者に対し、その申込みの受理、面接、指導、紹介等の業務について、人種、国籍、信条、性別、社会的身分、門地、従前の職業、労働組合の組合員であること等を理由として差別的な取扱いは一切致しません。

5 本所の取扱職種の範囲等は、            です。

6 本所の業務の運営に関する規定は、以上のとおりでありますが、本所の業務は、すべて職業安定法関係法令及び通達に基づいて運営されますので、ご不審の点は係員に詳しくおたずねください。

    年  月  日

             代表者

(注3)求職者には、原則として手数料は請求できないこととされており、例外的にしかその請求は認められていない。本掲載第9回参照。

職業紹介をめぐる
法的な問題等について

■第1回
職業紹介の法的性格とその内容
について

■第2回
職業紹介、労働者派遣及び労働
者供給の相互関係

■第3回
職業紹介と消費者契約法等との
関係

■第4回
暴力団関係者からの求人・求職
申込みへの対応について

■第5回
職業紹介における個人情報保護
のあり方について

■第6回
紹介業者の善管注意義務について

■第7回
職業紹介における労働条件等の明示について

■第8回
紹介所と労働組合のかかわり

■第9回
手数料について

■第10回
ハローワークと求人者・求職者の職業紹介を巡る法的関係について

■第11回
事業譲渡、合併、会社分割等における紹介事業の許可等の取扱い

■第12回
固定残業代の記載がある求人票への対応について

■第13回
民法改正案の職業紹介業務への影響について

■第14回
最近の法改正を踏まえた適正な職業紹介業務の遂行について

■第15回
障害者雇用において職業紹介業者が留意すべき点について

■第16回
マイナンバー法施行に伴う職業紹介業者の留意すべき点について

■第17回
現在政府で検討されている職業紹介事業の見直しについて

■第18回
労働関係法令違反があった事業主からの新卒求人の取扱いについて

■第19回
地方分権を踏まえたハローワークの職業紹介等の改革について

■第20回
同一労働同一賃金と職業紹介上の留意点

■第21回
職業紹介事業に関する制度改正についての建議

■第22回
改正個人情報保護法の施行に向けて

■第23回
職業紹介事業に関する制度改正について

■第24回
働き方改革の概要について

■第25回
「職業紹介事業に関する制度改正について」と「改正個人情報保護法の施行に向けて」の改訂について

■第26回
民法改正の職業紹介業務への影響について

■第27回
紹介手数料不払い、求人者の倒産等への対応

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